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御題其の六十九

泰麒発見

 とうとう泰麒が見つかった。廉麟が齎した、その報せ。氾王は蘭雪堂に集う人々の反応を、密かに窺った。
 待ちに待った報せに、李斎は天を仰いだ。麒麟たちは勿論、疲れを見せながらも喜色を顔に浮かべた。そして、延王尚隆は──反応が読めなかった。
 報せを聞いて駆けつけた景王陽子は蒼白な顔をしていた。泰麒が見つかったそうでね、と訊ねる景王に答えたのは、同じく胎果の延王。聞いた景王は生唾を呑み込んだ。

 虚海を渡る王と渡れない王。

 その胸中を察してか、誰も口を開かない。胎果が蓬莱を想う気持ちなぞ、常世で生まれた者には計りしれない。それでも、二人の間に漂う緊張を、氾王は感じていた。
「──さて、もう夜も更けた。明日のために休んだほうがよいのではないかえ」
「呉剛の門をどこで開くか、検討する必要があるが」
「誰もが猿王のように丈夫なわけではないであろ」
 休め、と言っても素直に聞く男ではない。僅かに疲れを見せていると告げることすら、この男の矜持を傷つけるのだろう。だから、笑みを湛え、挑発してみせた。
 明日虚海を渡る王の背を眺め、この男を揺るがす若き女王を思う。──麒麟の本性を喪失した泰麒が戻っても、戴が救われるとは限らない。長き治世を敷き、天の理を熟知する王ならば、易々と動くことはない。現に、奏も雁も事態を静観していた。無論、それは範も同じである。
 自国を置いて、他国の世話をすることは、常世では有り得ない。それなのに。その、若さゆえの未熟さと純真さが、そして、紛れもない女王としての意志が、新しい風を吹かせる。

 ──慶がこの女王の下に落ち着けば、常世は大きく変わるかもしれない。しばらくは退屈せずに済みそうだ。

 氾王は薄く笑った。

2007.03.07.
 「黄昏」第33回第66章の氾さま視点でございます。 尚隆も陽子も己の物思いに沈んでしまったので、私は困ってしまいました。 そんなときに、救いの手を差しのべてくださった氾さま……。 私、やっぱり氾さまが大好きでございます♪

2007.03.07.  速世未生 記
(御題其の六十九)

けろこさま

2007/03/08 22:11
 こんばんは。
 おおぅ!お久しぶりネの氾さま…
 やっぱり氾さまは「世の一大事」にも渦中に巻き込まれず、チョット横から観察していると いう位置が似合っておられますワv
 この「チョット横から」尚隆相手にちょっかい出して、延氾対決をまた遣って いただきたい物ですネ。
 ああ、でも尚隆の揺れがもう少し収まらないと氾さまもちょっかいの出し甲斐が 無いですわね〜。

未生(管理人)

2007/03/09 06:42
 けろこさん、いらっしゃいませ〜。
 「守り人」最新刊を読み終えました。まだなんとなく呆然としております。 そして、「桜」ではなく「黄昏」を書きたくなりました。 で、尚隆視点を書いております。
 氾さま視点、実は初めてかも……。 やはり、一歩引いて冷静に観察しつつ、事態を面白がる、というスタンスなのか〜と 私も納得いたしました。
 氾さまへの対抗心からも、尚隆は「揺れ」を抑えるべく頑張るのでしょうね〜。
 メッセージ、ありがとうございました。
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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