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御題其の七十一
ありがたい忠告
蘭雪堂の榻にて、景王陽子は深く大きな溜息をつく。氾王の悪戯で着付けられた華やかな襦裙に目を落とすと、本日何回目か分からない溜息がつい漏れてしまうのだ。
即行で脱ぐのも氾王に失礼かと思い、しばらく我慢をしていたが、このままでは執務室にすら行けない。おのずと蘭雪堂に閉じこもりきりになる。
──皆
の視線が痛い。変なら変と言ってくれればいいのに。陽子はもうひとつ溜息をつく。
堪えきれずに着替えてこようと立ち上がると、延王尚隆に絡まれた。
──あ
のひとは、我が伴侶ながら、何を考えているのかさっぱり分からない。どうしたらいいの
か──。
「陽子」
「延麒……何ですか?」
ちょっと地図を見てくれ、と延麒六太が陽子の手を引いた。地図を持って孤琴斎へ向かうと、六太は途中の回廊にて足を止めた。
「陽子、今日はそれ、勝手に脱ぐなよ」
「──?」
「誰かさんに虐められるのは嫌だろ?」
もうとっくに虐められてますけど、と拗ねた応えを返すと、六太はちっちっちっと指を一本振った。分かってないな、と小さく嘆息し、六太はにやりと笑って続けた。
「さっきのあれ、虐めのうちに入らないぞ」
「──」
背筋にぞくりと悪寒が走り、陽子は絶句した。硬直する陽子の肩を、六太はぽんと叩いて小さく囁く。
「──いいか、絶対に、勝手に脱ぐなよ」
止めの一言に、陽子はこくこくと頷くことしかできなかった。
2007.03.20.
──御題其の七十「悪戯後の悶着」の続きでございます。 相変わらず頭が壊れたときに書くようなお話となりました。 いや、壊れているのでしょうね、私の頭……。
2007.03.20. 速世未生 記
(御題其の七十一)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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