「目次」 「玄関」 

御題其の七十二

かの方の本音

 夜半に堂室を訪ねると、伴侶は所在なげに坐っていた。氾王に着付けられた艶やかな襦裙のままで。尚隆は思わず顔をほころばせた。
「──よい子にして待っていたようだな」
「あれだけ虐められたら、私にだって脱いじゃいけないって分かるよ」
 伴侶はそう言って恨めしげに尚隆を見上げた。あれくらいで虐められたと思うなど可愛いな、と思いつつ、尚隆は榻に腰掛けた。それから、くつくつと笑って応えを返す。
「虐めたつもりはないのだがな」
「虐めじゃなきゃ、何なの?」
 拗ねた声を出す麗しい伴侶を抱き寄せて、尚隆は真顔で告げる。

「──本音だ」

 目を見張る伴侶の耳許に唇を寄せ、笑い含みに断じた。
「──それを着せたのは範の奴かもしれないが、脱がせるのは俺の役目だぞ」
「──!」
 見る間に伴侶は頬を染めた。やっぱり分かってなかったな、と囁いて尚隆は伴侶に甘く口づけた。それから、伴侶を抱き上げてにやりと笑った。

「──脱いでいたら、どうやって虐めてやろうか、とは思っていたがな」

2007.04.02.
 絵師さまの素敵絵に「萌え」をいただき、しばらく胸で温めておりました小品でございます。 御題其の七十一「ありがたい忠告」の続き、になるかしら。 一気書きできてよかった〜♪

2007.04.02.  速世未生 記
(御題其の七十二)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「目次」 「玄関」