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御題其の七十三

桜桃の秘密

「何をやっているのだ?」
「桜桃の軸を、口の中で結ぼうとしているんだ」
「ほう……」
 悪戦苦闘している伴侶だったが、努力虚しい結果であった。いたずらに桜桃が数を減らしていくいくのを、尚隆は面白げに眺めていた。やがて伴侶は小さく溜息をつき、尚隆を見上げる。
尚隆なおたかはできる?」
「どうだろうな」
「六太くんが、あなたは巧いはずだって言ってたけど……」
 少し頬を赤らめてそう言う伴侶の意図を悟り、尚隆はにやりと笑った。おもむろに桜桃を取上げて、口に入れる。
「──なかなか難しいな」
「あれぇ?」
 尚隆が口から出した結ばれていない軸を見て、伴侶は素っ頓狂な声を上げた。期待を裏切らない反応に、尚隆は内心の笑みを隠す。
「では陽子、手伝ってくれ」
 そう言い様に伴侶を引き寄せて、軸をその朱唇に口移しで含ませた。そして──。
「な、尚隆(なおたか)……」
 濃厚な口づけの後、涙目の伴侶が、己の口の中から結ばれた軸を出して溜息をつく。
「曲芸をやれとは言ってないよ……!」
「俺をからかうときは、身体を張れ、と言ったはずだが」
 唇を歪めて押し倒すと、伴侶は深い深い溜息をついた。そして、諦めたように呟いた。
「──あなたは、そういうひとだよね」
「お前はやはり可愛いな」
 耳許でそう囁いて、尚隆は桜桃より甘い果実を、じっくりと味わった。

2007.05.26.
 オマケ拍手で出した其の百二「桜桃の秘密」でございます。 御題其の六十七「果実の秘密」の尚隆編になるでしょう。
 桜祭掲示板での連鎖妄想の産物でございますが、さすがに祭掲示板に載せられる代物では ございませんでした(笑)。 だってねぇ、私の「本命」でございますから! 
 一部で意地悪度高いと評された拙宅の尚隆……。 如何なものでしょう? 無論私的ツボでございます。

2007.04.02.  速世未生 記
(御題其の七十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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