御題其の七十四
朝議の一幕
「──却下だ」
にっこりと笑んで国主景王は断じた。奏上を終えたばかりの官は、呆気に取られて麗しき女王の顔を穴が開くほど見つめる。冢宰浩瀚は苦笑をしつつ、棒立ちの官を促した。
「御前ですぞ」
官ははっと我に返り、軽く咳払いをした。そして、恭しく拱手し、主に言葉を返した。
「恐れながら、主上……。もう一度仰っていただけますか?」
「聞こえなかったか? 却下と言ったんだ。──私は頭がよくないから、お前の言っていることがよく分からない。私には、やりたくないからやらないと聞こえた」
景王陽子は柔らかな声でそう返し、再びにっこりと笑んだ。しかし、伸びやかな声は雷鳴の音を孕み、美しい顔の裏には憤怒の色が見え隠れする。浩瀚は主から奏上した官に視線を移し、じっくり観察した。官は瞠目し、冷や汗をかいていた。それから慌てて頭を下げ、言い訳をする。
「滅相もない! 主上、私はやりたくないなど、一言も……」
「ならば、私の命に従え。それが嫌なら、納得いく理由と代替案を示せ。以上、解散」
声を震わせて述べた官は、国主景王の事務的な声に、更に肝を冷やした。そして、そのまま無造作に玉座を降りて退出する若き女王を拱手したまま見送った。
「これにて解散!」
一声上げて、冢宰浩瀚は主の後に続く。内心の笑みを隠しながら。
「主上、お見事でした」
「また私が怒ると思ったか?」
振り返った主はにやりと笑って浩瀚を見上げた。浩瀚はにこやかな笑みを返す。
「お気づきでしたか」
「無論だ。だから、お前の真似をしてみた」
「私の真似、でございますか?」
「うん。浩瀚に笑顔で駄目ですと言われると、私はいつも言葉に詰まる。だから、同じことをしてみた。巧くいったようだな」
そう言って花ほころぶように笑う主に、浩瀚も笑みを返し、恭しく拱手した。
「──それでは私も新たな手を考えなければなりませんね」
「おいおい、お手柔らかにしてくれよ」
大仰に肩を竦める主に、浩瀚は心からの笑みを見せた。
2007.05.30.
いやはや、胸に燻る会議への怒りの結晶でしょうか(笑)。
これからこんなのばかり書いていたりして。
御題にはちょっと長いけれど、どうぞご勘弁くださいませ。
2007.05.30. 速世未生 記
(御題其の七十四)
Kさま
2007/05/30 22:45
……「遠山の金さん」……?(笑)
浩瀚の科白、私にとっては妙にインパクトがあって、これしか感想が出てきません。
ゴ、ゴメンナサ〜〜〜イ!!
ひめ(気配を消したいひと)さま
2007/05/31 01:19
こんばんは〜
なんとなく管理人さんの心境よね(笑)〜
と思って読んでおりましたら、どうもそうかもしれないご様子。
官はかわいそうだ、と同情できないのが辛いですね(笑)
未生(管理人)
2007/05/31 05:26
Kさま>
>……「遠山の金さん」……?(笑)
言われてみればそうかも(笑)。
ひめさん>
気配を消したいんですか〜? 背後が気になるから?
ダメですよ、ちゃんと存在を示してください(笑)。
はい、私の心境でございます。もうバレバレですね〜。
メッセージ、ありがとうございました。