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御題其の七十六

七夕の種明かし

 満ち足りた想いを抱いて牀で寝直した陽子は、眩しい光で目を覚ました。 やがて扉が開く気配がし、朝の支度に現れた鈴が爽やかに声をかけてきた。
「おはよう、陽子。よく眠れた?」
「おはよう、鈴。お蔭さまでよく眠れたよ」
 昨日の夜に見た幸せな夢を思い出し、陽子はにっこりと応えを返す。それはよかったわ、と鈴も嬉しげに笑ってくれた。そんな鈴に、陽子は耳打ちする。
「──織姫が彦星と会う夢を見たよ」
「願いが叶ってよかったわね」
 我がことのように喜んで、鈴は陽子の堂室を出て行った。その後、祥瓊が現れて、陽子にそっと囁いた。
「ねえ、これ、なんの呪なの?」
 祥瓊が差し出したものは、細く切られた料紙だった。陽子は思わず息を呑み、目を見開いた。そこには、鈴の字で「陽子の願いが叶いますように」と記してあった。祥瓊が焦れたように訊ねる。
「蓬莱のまじないなの?」
「うん」

 鈴も祈ってくれてたんだ……。

 陽子は胸に点る温かなものを抱きしめながら、祥瓊に蓬莱の七夕の話を聞かせた。納得した祥瓊も、花ほころぶように笑って頷いたのだった。

2007.08.22.
 小品「星願」及び小品「七夕」の翌朝のお話でございました。 友達っていいな、と陽子主上は改めて思ったでしょうね……。

2007.08.22.  速世未生 記
(御題其の七十六)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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