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御題其の八十二

鴻溶鏡の使い道

 鴻溶鏡が、人にも使えたら。

 人手不足で、誰もが走り回る金波宮内を眺め、景王陽子は溜息をつく。側近を裂いて二人にしたら、みんなの仕事が楽になるのではないか。陽子は想像を膨らませる。
 景麒が二人いたら──小言が二倍に増えるだけだ。却下。
 冢宰浩瀚が二人いたら──陽子の案件が二倍に増えるだけかも……。却下。
 祥瓊が二人いたら──はさみうちを食らって襦裙を着せられてしまう……。却下。

 ううん、あまり楽にならないかも。

 陽子は想像を違う方向に変えてみた。尚隆が二人いたら、ひとりをもらってずっと一緒にいられるだろうか。いや、どちらも好き勝手にいなくなってしまうかも。やっぱりだめか。
 じゃあ、自分が二人になったら? どっちが雁に行くかで喧嘩をしそう……。

 筆が止まってしばらく経った頃、お馴染みの溜息とともに諌める声が聞こえた。
「──主上、真面目に仕事をなさってください」
「分かってるよ」
 蹙めっ面の景麒に苦笑を向けて軽口を返す。
「けどね、景麒、たまには休憩も必要なんだよ」
「──言い訳がお上手になられましたね」
 微かに口許を緩めた景麒の応えに、陽子は大笑いする。そして、半身の諫言にいちいち腹を立てなくなった己の余裕に気づき、嬉しい気持ちになった。

2007.11.22.
 先日、Tさまからご質問いただきました。「鴻溶鏡が使えたら誰を増やしますか?」 ──陽子主上に考えてもらったら、上のようになりました(笑)。
 Tさま、楽しい御題ネタをありがとうございました〜。

2007.11.22. 速世未生 記
(御題其の八十二)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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