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御題其の八十五

 陽子は考え事をしていた。爪を噛むことは祥瓊に禁止されていたから、何とはなしに髪に手を伸ばした。切ることを禁じられ、長くなっていた髪を、上の空で弄んだ。そして──。
「うわぁ……」
 小さな感嘆の声が聞こえた。肩をびくりと揺らし、陽子は声のした方を向いた。見ると、桂桂が目を丸くしていた。
「陽子、それは何?」
「それって?」
「その、髪」
 桂桂に指摘されて、陽子は己の髪に目を落とす。そこには、無意識のうちに作られた三つ編みがあった。
「桂桂は三つ編みを知らないんだ……」
「三つ編みっていうの? それ。綺麗だね!」
 桂桂は無邪気な笑みを見せる。陽子もつられて破顔した。三つ編みにはよい思い出がない。蓬莱では、赤い髪を黒く見せるために必ずしていた髪型だったから。
「気に入った?」
「うん。よく似合うよ」
 澄んだ目で見上げる桂桂に、にっこりと笑みを返す。そして陽子は髪を解き、桂桂の目の前で、もう一度髪を編んで見せた。再び目を丸くする桂桂の前に、苦い思い出は融け去っていったのだった。

2008.01.09.
 纏まりそうにない長いものを書いていると、短いものを書きたくなります。 そこで、年末に募集した「御題ネタ」を引っ張り出しました。 「陽子が蓬莱から持ち込んだもの」ということで、「三つ編み」を上げてみました。 Tさま、どうもありがとうございました〜。
 もしかしたら常世にもあったかもしれませんが……原作で「月の影〜」の陽子以外に 見たことがないような気がいたしますので、どうぞ軽く読み流してくださいませ!

2008.01.09.  速世未生 記
(御題其の八十五)


背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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