御題其の八十七
舌先三寸
「──私は反対です」
「景麒……」
にべもない宰輔の答え。主は途方に暮れたように溜息をついた。相変わらず、主の伴侶が絡むと、宰輔はいっそう気難しくなる。浩瀚は苦笑を隠せない。
発端は、隣国からやってきた鸞だった。伝言は、雪を見に来い、ただ一言。主はその謎かけを解き、国が落ち着いたら雪を視察しに雁に行く、という約束を思い出した。
遠慮がちに休みを願う主に、浩瀚は首肯した。今の慶は国主が多少留守にしたくらいでは揺るがないと判断したからだ。が、主の伴侶を厭う宰輔は頑として肯んじない。その気持ちも浩瀚にはよく分かる。
主が困惑したように浩瀚を見やる。浩瀚は軽く頷き、宰輔に目を向けた。
「僭越ですが、台輔。かの方が鸞を寄越しているうちに了承したほうがよろしいのではないか。と」
「どういうことだ?」
「却って勝手にできてよい、とかの方なら仰りそうですよ。ね、主上」
「そ、そうそう。今なら、私の都合に合わせてくれそうだから、今のうちに、ねっ」
「──確かに、勝手に主上を連れ回されては困りますが」
「直接乗りこまれる前に、但し書きを添えて了承なさって如何ですか」
「──止むを得ないですね」
宰輔は渋々ながら首肯した。それを見て主の顔がぱっと輝く。それから、主は浩瀚に軽く目礼した。浩瀚は微笑でそれに応えた。
「浩瀚、ありがとう!」
宰輔が退出すると、主は興奮した面持ちでそう言った。そして浩瀚の両手を掴み、ぶんぶんと振る。そのまま踊りだしそうな勢いだった。
頬を上気させた主は外見に相応しい少女のようで、浩瀚は笑みを誘われた。それから、その華奢な手を押し頂き、応えを返す。
「──全ては主上のために」
「お前はときどき途轍もなく気障だな」
そう言って笑う主は冬を彩る花のようだ。浩瀚は主に手を握られたまま、その麗しい笑みを鑑賞し続けたのだった。
2008.01.22.
久々の浩瀚でございます。あれ、陽子主上に手を握られても動揺しておりませんね〜。
どうやら免疫が付いたらしいですね。
「雪明」を読み返し、むらむらと書き流した軽い小品でございます。
どうもお粗末さまでございました。
2008.01.22. 速世未生 記
(御題其の八十七)
けろこさま
2008/01/23 23:37
>免疫がついた
のではなく、バクバクなる心臓と急上昇する体温を必死に抑えようとする分、
冷静にいつも通りの対応になってしまうのですよ〜、きっと。
で、麗しい笑みだけでなく、主上の小さく温かな手の感触もしっかり密かに堪能して
いるんでしょうね〜(妖笑)
未生(管理人)
2008/01/24 14:16
けろこさん、いらっしゃいませ〜。
免疫がついたのは「惑乱」後だからかも、とも思い返しました〜。
そうそう、陽子主上が気がついて手を離すまでその感触を堪能するんでしょうね!
(こんなことばかり言っているといつか逆襲を喰らいそうな……)
メッセージ、ありがとうございました!