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御題其の九十二

願い事を叶えた後に

 南国の海のような翠の瞳に、見事に酔わされた。酒にもここまで酔ったことはないかもしれない。

「お前に、酔った」

 尚隆が漏らしたその一言に、伴侶は大きく目を見張る。己の持つ力を未だに理解していない無邪気な女。尚隆は笑みを湛え、伴侶の火照った頬に口づけた。
 そのまま伴侶を牀榻へ誘う。そして、伴侶とともに牀に横たわり、尚隆はその細い腕に頭を乗せた。されるがままになっていた伴侶は、またもや翠玉の瞳を大きく見開いた。
「──尚隆なおたか?」
「お前が俺を酔わせたのだから、責任を取れよ」
 逆腕枕に戸惑う伴侶に素っ気なく応えを返し、尚隆はさっさと目を閉じる。伴侶は小さく笑いを零し、尚隆の瞼にそっと口づけを落とす。そして、おやすみ、と囁いて、優しく尚隆の背にもう片方の手を回した。

 暖かい翠の海に包まれて、尚隆は幸せな眠りに就いたのだった。

2008.08.01.
 短編「願事」続編、オマケ拍手「酔」を改稿してもってまいりました。 焼き直しでごめんなさい〜。
 けれど、こんな尊大な尚隆も可愛いな、と思ってしまったのでした(ぽ)。

2008.08.01. 速世未生 記
(御題其の九十二)

背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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