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御題其の九十六

冢宰の慎ましやかな願い

「浩瀚、ちょっと時間を作ってくれないか?」
 朝議の後、主が笑い含みにそう言った。浩瀚は拱手をしつつ訊ねる。
「御意のままに。──が、どういったことを?」
「秋官長がね、私に会わせたい者がいるというんだ」
「秋官長が?」
「そう。お前が王への直訴を禁じたからだぞ。責任を持って時間と場所を作ってくれよ」
 にやりと笑って主は浩瀚の二の腕を叩く。浩瀚は苦笑した。放っておくと下働きの者の陳情にまで耳を傾ける主のために、王に直で奏上したい者のための令を整備しただけなのだが。しかし、早速その制度を使い、王への奏上を許された者がいるという事実に満足し、浩瀚は再び恭しく頭を下げた。

 外殿の一室に設けられた席に、奏上者は緊張気味に座していた。秋官長の簡単な説明の後、前に進み出た奏上者は、訥々ながら真摯に具申する。秋官長が許可を与えたことが頷ける良案であった。
 奏上を終え、深々と頭を下げたその者に、主はにっこりと笑みを浮かべて問う。
「お前はそれをやり遂げる自信があるか?」
「──はい」
「では、やってみるがよい。秋官長、仔細は任せたぞ」
「畏まりまして」
 恭しく頭を下げる二名に頷き、主は席を立つ。浩瀚もその後に従って退出した。

「主上、よろしいのですか?」
「うん。だって、現状の不備をよく捉えた上で、具体的な代替案を出しているじゃないか。私に聞かせたということは、秋官長も賛成しているんだろうし。──浩瀚は不満か?」
 主は少し不安げに浩瀚を見上げる。懐の深い方だ、と思いつつ浩瀚は微笑した。

 身分低き者の言葉にも耳を傾け、臣を信頼し、仕事を任せることができる女王──。

「不満など、あろうはずもございませんよ」
「──お前にそんなことを言われると、裏があるんじゃないかと不安になるよ」
「それは、主上が日頃の行いを自覚なさっているからでしょう」
「それでこそ、浩瀚だな!」
 主は屈託なく大笑いした。浩瀚はその笑顔を眩しく見つめる。暁の太陽は、ゆっくりと慶の空を昇り、その輝かしい光で、慶の国と民を遍く照らすことだろう。その名の如き陽光の笑みで。

 願わくば、いつまでもこの場所でそれを見つめていたい。

 改めてそう思い、浩瀚は主に深く頭を下げた。

2008.09.04.
 こんなところで何を書いているんだか……。 はい、お察しのとおり、私は怒っております。 辛辣なメールを書いてしまわないよう、頭を冷やすために書き流しました。 何気に御題其の八十九「冢宰の日常的な憂慮」の続きでございます。
 以下、口汚い愚痴でございます。退避勧告いたします。






 世の中、こんなに上手くいくことは稀なんだって私だって解っておりますとも!  けれど、やっぱり腹は立つのですよ。文句を言うなら自分でやれ!  私は文句を言いたいがために自分で企画を立てただけなんです。 無論、ちゃんと許可は取りましたとも!  茶々を入れるなら、代替案を提示した上で自分でやってくれ!  そしたら、にっこり笑って全部任せてあげますとも!

 ──ああ、すっきりした。 って、こんなもの読んでしまった人はすっきりできないですよねぇ、ごめんなさい〜。

2008.09.04. 速世未生 記
(御題其の九十六)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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