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御題其の九十七

秋の逍遥

 不意に秋の冷たい風が吹きぬける。陽子は肩を少し震わせた。そんなとき。
「──陽子」
「わあ!」
 笑いを含んだ声とともに温かいものが肩を覆い、陽子は思わず叫んだ。
「そんなに驚くことか?」
 陽子の肩に覆い被さった伴侶は、喉の奥で笑い、のんびりと訊ねる。

 このひとは、どうして、いつもいつも、躊躇いもなく陽子に触れるのだろう。

 そう思いつつも、本音を告げることはできなかった。
「お、重いんだよ」
「だが、温かいだろう?」
 小さな声で応えを返すと、伴侶は大らかに笑ってそう言った。陽子は声なく頷く。伴侶の大きな身体は、確かに温かく、心地よい。
 陽子は力を抜き、伴侶に背中を預ける。

 赤く染まった頬を見られなくてよかった。

 胸でそう呟きながら。くすりと笑いつつも、伴侶は何も言わずに陽子を受けとめる。厚い褞袍なしに寄り添える秋のよさを思い、陽子はまた頬を染めたのだった。

2008.10.15.
 「秋の逍遥」──ぶっちゃけ「秋の尚陽」でございます(笑)。 いったいどこで何をしているのかさっぱり解りませんが、楽しそうなのでよしといたします。 (←ほんとにいいのか?)
 5時のアメダスが10℃の北の国では、温もりが恋しくなるのでございます。 どうぞご勘弁くださいませ。

2008.10.15. 速世未生 記
(御題其の九十七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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