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御題其の九十八
(末声注意!)
巡る季節
かさり、と微かな音がした。そして、憶えのある気配を感じた。反射的に窓を見やり、陽子は溜息をつく。
──そんなはずはない。
何度も首を横に振り、もう一度、窓に目をやった。かさり、とまた音がした。陽子は立ち上がり、音の出所を冷静に探す。そして、窓の外に、朽ち葉を落とす桜の木を見つけたのだった。
微かな音を立て、桜は次々と葉を落とす。歩み寄る陽子には、それが雨のように見えた。足許に目を移し、思わず息を呑む。そこには見事な黄赤の絨毯が広がっていた。
こんな綺麗なものが、目に入らなかったと
は──。
陽子は自嘲する。知らぬ間に、季節は巡っている。陽子は唇を緩め、そっと桜の幹に手を触れた。時を止めた己の身体とは違い、その身に時を刻むもの。
いつか……この想いはなくなるのだろうか。永遠などなかろう、と笑うひとの面影は、胸から消えてしまうのだろうか。そう思うだけで、切なさが募った。そんなとき、一陣の風が吹きぬけ、木々を、陽子の髪をも揺らした。風とともに、さわさわと桜が笑う。
まるで、愛しいひとがそこにいるかのよう
に──。
そう、永遠などどこにもない。だから……この胸の痛みも、いつか必ず和らぐ日がくるのだろう。そして……愛しいひとを、懐かしく思い出す日も、いつかは来るに違いない。
鮮やかな黄赤の絨毯を眺めながら、陽子はゆっくりと笑みを浮かべた。
2008.10.16.
昨日、いつもの坂道を歩いていると、落ち葉がまるで雨のように降りかかってまいりました。 坂の上の桜公園を見やると、見事なオレンジの絨毯が……。 いつの間にか、季節はすっかり秋でございます。 深まる秋は、物思いを増やします……(長いものに詰まっているから、余計に……/苦笑)。
2008.10.16. 速世未生 記
(御題其の九十八)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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