「目次」 「玄関」 

御題其の百一

(末声及び微妙に利陽注意!)

淡い陽のように

 淡い陽が窓辺に射していた。女王は遠い目をして窓の外を眺めている。緋色の髪が紅葉の如く煌き、麗しい憂い顔とともに利広の目を惹きつけた。
 長い沈黙が辛いとは思わない。女王は、物思いに沈む様すら隠しはしないのだ。利広は微笑し、女王を眺め続けた。
 微かに睫毛が動き、女王はゆっくりと振り返る。そして、視線が合った途端、気まずげに目を逸らした。それは、胸に秘めた想いを悟られたくないからだ、と利広はもう知っていた。
「──陽子」
 俯いた女王はこちらを見ようとはしない。利広はくすりと笑い、おもむろに続けた。

「君は、思うままにしていいんだよ」

 びくりと肩を震わせて、女王はゆっくりと振り返る。見開かれた瞳が、どうして、と問うていた。
「──思うままにするといい」
「そんなわけにはいかないよ……」
 消え入りそうな応えを寄越し、女王は再び俯く。利広は笑みを浮かべ、女王の細い肩に手を伸ばす。

「──誰が止めても、私だけは止めないよ」
 たとえ、君が、独りで逝きたくなったとしても──。

 利広は想いを籠めて愛しい女をそっと抱き寄せる。女王は顔を上げ、利広を真っ直ぐに見つめた。僅かに目を見張り、泣きそうに歪められた、その顔。けれど──。

「ありがとう、利広」

 そう言って、女王は淡い陽のような笑みを見せた。利広は思わず小さく息を呑む。そんな利広に、女王は悪戯っぽく続ける。
「でも、私は……大丈夫」
 まだ、という言葉を呑みこんだような気がした。しかし、憂いを払った女王の笑みは清々しい。

 それでも君は泣かないんだね。

 そう告げたなら、女王はきっと困ったように首を傾げるのだろう。だから、利広は何も言わずに頷いた。そして、ただ微笑だけを返した。

2008.10.31.
 何の気なしに「桜の決意」を読み返し、衝動的に書き流した小品でございます。 利広視点なのは、「真意」のせいもあるかもしれません……。
 トップをハロウィン南瓜にしておいて末声はないだろう! とひとりツッコミをいたしました。 お粗末でした。

2008.10.31.  速世未生 記
(御題其の百一)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「目次」 「玄関」