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御題其の百四

延景対談

「俺が後宮に后を置かずに済んだわけを知っているか?」

 壮麗な玄英宮の主である延王尚隆は、そう言って人の悪い笑みを見せた。問われた賓客は、気のない応えを返す。
「──さあ?」
「見目の良い側近に、後宮の一室を与えたからだ」
 効果は絶大だったぞ、と雁国の王はいかにも楽しげに笑う。
「誰も美姫を献上するとは言ってこなかった」
 景王陽子は盛大な溜息をつき、尚も続く言葉を横を向いて受け流す。
「それが、私に何か関係あるのですか?」
「女官に後宮の一室を賜ってはどうだ?」
 尚隆はにやりと笑う。その手に乗ってはいけない、と思いつつも、陽子は硬い声で問い返す。
「──嫌がらせですか?」
「嫌がらせなものか」
 即答するその言葉尻が震えている。陽子は顔を蹙めて言い募った。
「それがもう、嫌がらせ、と言うのですよ」
 その瞬間、延王尚隆は身体を折って爆発的に笑い出す。用意された襦裙を拒んだ挙句、逆切れした女官に煌びやかな長袍を着付けられ、凛々しい姿となった景王陽子は、またも深い溜息をついた。
「──呼びつけられても、もう決して雁には近づかないことにしますから」
「では、次のご訪問はその姿が伝説になる頃、ということだな」
 目尻に滲んだ涙を拭いながら、雁国の気儘な王は笑いを噛み殺していた。

2008.12.09.
 玄英宮を訪れて酷い目に遭った陽子主上を書き流してみました。 久々の御題がこんなのですか……(苦笑)。
 ちょっと疲れて、頭が壊れてきたのだな、と大目に見てやってくださいませ。

2008.12.09. 速世未生 記
(御題其の百四)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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