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御題其の百七

願わくば

 永遠など、何処にもない。

 そう思っていた。今もその思いは変わらない。しかし。
 隣を歩く伴侶は変わらぬ笑みで尚隆を見つめる。振り返れば、伴侶とともに歩んだ道が見える。それは、目には見えぬ長い長い道。
 永遠など存在しない。が、悠久の時を二人で過ごした。

 願わくば、この至福がずっと続かんことを──。

「どうかした?」
 瞑目する尚隆に、伴侶が不思議そうに問う。ゆっくりと目を開けて、翠の瞳を見つめ返す。
「永い時をともに過ごしたな」
「──あなたの歳の半分にも満たないよ」
 離れている時間のほうが多いしね、と続けて、伴侶は軽やかに笑う。つれないな、と呟いて、尚隆は小さく嘆息した。
「──離れていてもいつも傍にいる、というあの誓いは、嘘だったのだな」
 悲しげに続けると、伴侶は頬を染めて俯いた。やがて、小さな手が尚隆の手にそっと触れる。微かな声が聞こえた。

「──嘘じゃないよ」

 無論、分かっている。尚隆は微笑してその手を握り返した。

2009.01.05.
 「永遠など何処にもない」──私の信条でもあります。 けれど、地味な一歩の積み重ねが、振り返ったときに長い道に見える。 自分の歩んだ時を、愛おしく思えるその瞬間が嬉しいのです。
 尚隆と陽子にも、そんなふうに長い道のりをともに歩んでほしいものでございます。

2009.01.05. 速世未生 記
(御題其の百七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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