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御題其の百八

六太のお膳立て

「蓬莱では、婚姻するときに二人で旅行に出るもんなんだぞ。慶から雁に連れてきただけだなんて、まるで視察じゃねえか」
「そうか? 陽子は嬉しそうだったがな」
「お前は乙女心が分かってない」
 六太の諫言に、尚隆はのんびりと応えを返す。六太は怒声を上げた。陽子は我儘を言うような女ではない。だから、尚隆が気を遣ってやるべきなのに。そんな六太の気も知らず、尚隆は軽口を返す。
「──まるで、お前の伴侶のようだな」
「そういう心配をしてやれるのは、おれだけなんだって、いつも言ってるだろーが!」
 轟く怒声を避けようと耳を塞ぎながらも、少し時間を置く、と尚隆は笑った。慶賀の儀で、陽子はゆっくりと休暇を取った。恐らく即位後初めてと思われる長い休暇だったから、今頃は溜まった仕事に忙殺されていることだろう、と。
 その言に六太も納得する。生真面目な女王は、きっと文句も言わずに書卓に積み上げられた大量の仕事をこなしているに違いない。
「確かにそうだろうがな。でもな、ちゃんと連れて行ってやれよ、気候がいいうちに」
 そう言い捨てて尚隆の執務室を後にした。遊びのことに関しては手際が良い尚隆は、早速手配をするだろう。が、素行の悪い尚隆は陽子の側近連中に疎まれている。きっと、尚隆の招聘では陽子は休暇を取ることができないだろう。
「──陽子のために一肌脱ぐとするか」
 六太は己の執務室に戻り、隣国に宛てて書簡を認めたのだった。

2009.01.13.
 違うものを書いていたのですが、どうにも進まなくなってしまい、ついつい書き流しました。 何気に拍手其の二百五十九「察しのよい冢宰」からの連鎖妄想でございます。 お粗末でございました。

2009.01.13. 速世未生 記
(御題其の百八)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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