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御題其の百九

内緒の頼み事

 突如現れた宮の主に叱られて、ゆったりと朝食を取っていた賓客は肩を竦めた。食事を終えた延王に一礼し、鈴は後片付けを始める。陽子はそれを手伝い、延王は興味深げに二人を見つめていた。
「それでは失礼いたします」
「──鈴」
 去り際に頭を下げると、延王が小声で鈴を呼んだ。顔を上げると、人の悪い笑みが目に入る。既に扉に向かっている陽子には聞こえていないようだった。

「後で、どうやってあの夜着を着せたのか、教えてくれぬか?」

 さらに声を低めた延王は、片目を瞑ってそう問うた。鈴は一瞬目を見開き、すぐに破顔した。丁重に頭を下げ、女王に聞こえるように応えを返す。
「それでは、後ほど女史とともにお茶の用意にまいりますね」
「頼む」
 延王は楽しげに笑って頷く。それを聞きとがめた陽子が怖い声を出した。
「延王、あまり私の友を困らせないでくださいね」
「友だからこそ気安く頼めるのだぞ。知らぬ者だと仰々しいことになる」
 延王は何食わぬ様子で軽口を返す。鈴は堪らず小さく吹き出した。それを耳にした陽子が顔を蹙める。
「鈴、笑い事じゃないぞ。仕事が溜まっているんだろう?」
「お客さまの接待もあたしの仕事ですよ、主上。それに……」
「それに?」
 陽子が首を傾げて訊ねる。鈴はにっこりと笑って続けた。

「延王のお話し相手をさせていただくことは、あたしにとっても祥瓊にとっても楽しいことなのです」

「それは光栄だ。というわけで、安心して仕事を続けてくれ、景女王」
「相変わらずお気楽でよいですね、延王」
 陽子は女王の顔をして深い溜息をつく。真面目くさったその様子に、鈴は延王を顔を見合わせて共犯者の笑みを交わしたのだった。

2009.01.23.
 短編「甘夜」及び短編「名前」の続編でございます。 何気に御題其の二十五「内緒のお話」の前の小品でもございます。
 ああ、相変わらず連鎖妄想ばかりの私の脳内。芸がなくてごめんなさい〜。

2009.01.23. 速世未生 記
(御題其の百九)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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