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御題其の百十一

深謀遠慮

「太子は未だ関弓の舎館に留まっておられます」
 風来坊の太子を見つけて玄英宮に戻った班渠は、調査を依頼した女王の伴侶にそう告げた。
「──まだ関弓に居座っていたとはな」
 班渠の報告を聞いた雁の国主はにやりと笑う。しかし、麗しの我が女王を捕らえ損なったあの太子が、大人しく帰途につくとは思えない。
「やり残したことがあるからでは?」
 班渠は思ったまま応えを返す。延王尚隆は大笑いし、人の悪い貌を見せて軽口を叩いた。
「何か言っておきたいことがあれば伝えるぞ」
「──本来の役目に戻りますので」
 後はお任せします、と班渠は低く答える。そう、班渠の役目は女王の護衛だ。影の如く側に仕え、その身を守る。が、此度は太子の奸計に嵌った女王の命で側を離れざるを得なかった。無論、それは女王の生命に係わる危険がなかったからなのだが。

 太子をあのままにはしておけない。

 女王の伴侶の言に、班渠も賛成だった。大国の太子といえどもやっていいことと悪いことがある。そう思ったからこそ、班渠は太子の捜索を引き受けたのだ。
「そうだな。後は任せてもらおうか」
 延王尚隆はそう言って凄みのある笑みを見せる。それから、班渠に軽く頭を下げた。

「班渠、大儀であった」

 大国の王でありながら、女王の伴侶は礼を惜しまない。

 礼には及びません、と返し、女王を守った隣国の王に、班渠もまた深く頭を下げた。

2009.02.03.
 中編「真意」続編を班渠視点でお送りいたしました。 実は短編「深謀」の尚隆視点も地味に書き綴っているもののひとつでございます。 いつか出せたらいいな〜。
 本日、チャットをしつつ萌えをいただいてしまいました。 Iさま、ありがとうございました!  けれどこのお話、チャットの話題とは全く噛み合っておりません(苦笑)。 大変失礼いたしました〜。

2009.02.03.  速世未生 記
(御題其の百十一)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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