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御題其の百十三

供王の思惑

「──まったく」
 供王珠晶は届けられた書簡を読み終わると同時に放り投げた。それを見た供麒が心配そうに声をかける。
「主上、それは慶国景王からの御親書では?」
「だから何?」
 珠晶は供麒を睨み、つけつけと訊き返す。供麒は困ったように続けた。
「他国の王からの御親書をそのように扱うとは──」
「あんたが口を噤んでいれば分かりはしないわよ」
「──」
「内政干渉にもほどがあるわ」
 供王の御物を盗んで逃亡した芳国の元公主孫昭が今は慶にいるという。隣国である範と柳には手配書を送ったが、まさか慶まで行っていたとは。それにも増して珠晶を驚かせた親書。

 まさか、景王自ら、恭国に罰を受けに戻るという祥瓊の減刑を望むとは。

「景王はそんなことをやっている場合ではないでしょうに。でも……」
 利広があれだけ気にかけているひとなのよね、と珠晶は胸で呟く。供麒が不思議そうな顔をして見つめていたが、珠晶はそれに答えを返さなかった。

 それからしばらく時が過ぎ、下官が今度は芳国からの書簡を携えてやってきた。内容は、またも芳国元公主孫昭の減刑。
「──まったく、恵侯ともあろう人が。お待ちなさい、使者に会うわ」
 眉根を寄せつつ供王珠晶は命を下した。主上、と不安げに声をかけた供麒に笑みを返す。
「言うべきことを言うだけよ」

 そう、干渉は許さない。恭の法を破った者の処罰は恭が決める。その則を曲げることは、国の崩壊に繋がるのだから。

 珠晶にはあの元公主が人に庇われるような人物だとは思えない。けれど、利広をあれだけ惹きつけた景王が、そして物の道理を分かっている恵侯が、揃って減刑を望むのだ。だから、きっと、祥瓊は変わったのだろう。それならば、供王珠晶が自ら祥瓊に会わずともよい。

 己の罪を自覚したなら、それでいい。必要とされる場所で、為すべきことを為せばいい。それこそが、祥瓊の命を奪わなかった恵侯への、ひいては芳の民への購いとなるだろう。

 芳の使者に言うべきことを言って追い返し、供王珠晶は命じる。
「もし、芳国元公主孫昭が恭国に現れたなら、処罰は国外追放と伝えなさい。そしてその態度と言動の一言一句を間違えぬように記録して供王に送るよう手配しなさい」
「主上」
「いくらなんでも、自分で確かめないと信じられないわよ」
 珠晶は供麒にそう悪態をつく。少し呆れながらも供麒は主に笑みを返したのだった。

2009.02.27.
 アニメ「十二」に刺激を受けて、いつか書いてみたかった珠晶のお話を仕上げてみました。これを書くためには「僥倖」連作を読み返さなければならず、それが面倒で放ったらかしでございました。
 「拙宅の利広が陽子に会ったわけ」なんかを捏造するのも楽しいのです。 どうぞお許しくださいませ。

2009.02.27.  速世未生 記
(御題其の百十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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