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御題其の百十四

神と人と

 ──かつての昇山者が雲海の上からやってきた。その者の胸の内を思い、碧霞玄君玉葉は深い溜息をつく。
 厳しい昇山を生き抜き、新王践祚を見届け、その王の朝に参じた李斎。そのままでいたならば、蓬山と王宮が雲の上で繋がっていることになど、気づかずにいたであろう。そして、李斎は更に天の無情さを知ることになるのだ。

 自ら正されるのを待て。

 玉京は蓬莱に流された泰麒に対し、そう判断を下した。それは、麒麟を守り育て、王と共に生国へ降りるまでを見届ける使命を帯びる碧霞玄君玉葉にとっても非情な命であった。
 本は人でありながら神である王や、人の姿をしながら神獣である麒麟は、この無情を飲み下すだろう。この世が天の理に縛られると知る者たちは。けれど。

 人は、耐えられるだろうか。仁道をもって国を治めよ、と教えているはずの天の冷酷な命に。

 それでも言わねばならない。

 はたして、民であり、人である李斎は、この現実に耐えることができるだろうか──。

 神と人の狭間に住まう碧霞玄君玉葉は、再び深く重い溜息をつくのだった。

2009.03.12.
 決まりとは、何を守るものなのか。

 守られるべきものを守るためにあるのが決まりなのだと思います。 けれど、悲しいかな、やがて決まりは一人歩きを始め、ときには作った者の意図しない方向へと進むことすら あります。
 決まりを明文化するからには、線引きをしなければならない。 どこで線を引くかは、その時の状況で変わってくるもの。 だから、「決まりだから守る」のではなく、「何を守るための決まりなのか」を、意識したいのです。
 理の隙間を縫う「黄昏の岸〜」を読むと、いつもこんなことを考えさせられます。
 ──とか、硬いことを述べておりますが、先日一気書きしたはいいけれど、誤って全消去してしまったものを、 なんとか発掘したので出してみただけなのでした。お粗末でございました。

2009.03.12.  速世未生 記
(御題其の百十四)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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