「目次」
「玄関」
御題其の百十八
(末声及び利陽注意!)
秘められた伝言
「──私は、王の孤独を知らなかった」
ぽつりと漏らされた呟き。利広は桜を見上げる女王の横顔を見つめる。女王は淡く笑み、舞い散る薄紅の花びらに手を伸ばしながら続けた。
「──五百年の孤独って、どんなものだったんだろうね」
「そんなことを真面目に考えていたの?」
聞いて利広は思わず吹き出す。女王は怪訝な貌をして利広を見た。利広はその視線に構わずに笑い続ける。
「君ってほんとに面白い」
気が済むまで笑ってから女王にいつもの言葉を贈る。唇を尖らせて拗ねる女王を引き寄せて、利広は耳許で囁いた。
「──特別に教えてあげる」
案の定、女王は視線を利広に戻した。にっこりと笑んで続ける。
「かの御仁は、それを知りたくないからこそ、独りで勝手に逝ってしまったんだよ」
君には、きっと分からないだろう。君は、己が独りにならない術を、知っているのだから。
今はまだ、教えてあげない。でも、いつかきっと、伝えよう。
そんな誓いを籠め、利広は小首を傾げる女王の頬にそっと口づけた。
2009.06.23.
今年の桜祭に出した「女王の物想い」の利広視点でございます。 実はこちらを先に書いておりました。 けれど、利広は桜よりも陽子主上を見つめてしまうので、あんまり桜祭向きじゃなくて、 陽子視点を新たに起こしたのでした。
妄想を誘うご感想をいただき、仕上げてみました。Iさま、ありがとうございました。
2009.06.23. 速世未生 記
(御題其の百十八)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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