御題其の百二十
(末声注意!)
夏の風
風が吹き抜けていた。強い夏の風は、降り注ぐ陽射しを和らげる。さて、宮の主はどこにいるのだろう。利広は、風に弄られる髪を押さえながら、金波宮の回廊を歩いた。
捜し人は、桜の幹に身を預けて目を閉じていた。夏風に長い緋色の髪が靡き、よく茂った葉も揺さぶられてさやさやと音を立てている。緑濃い葉が、まるで女王を抱きしめているかのように見え、利広は思わず息を呑んだ。
風漢──。
女王がその身を委ねる者は、未だかの御仁のみなのだ。そう思いつつ、葉擦れの音が笑い声に聞こえ、利広は唇を緩める。そのとき、女王が目を開けた。
「利広、久しぶりだね」
桜から身を離し、女王は鮮やかな笑みを見せる。片手を挙げて笑みを返し、利広はゆっくりと女王に歩み寄った。
「ここは涼しいね」
「うん。木陰はまだ過ごしやすいよ」
女王は葉を茂らせた桜を見上げて笑う。桜が女王を見守るのは、春だけではないようだ。それでも、利広は女王を訪い続けるだろう。桜は、利広を拒みはしないのだから。
懲りずによく来るな。
そう笑う桜に、いつもの科白を返す。
私は気が長いんだよ、と。
そして利広は、不思議そうに首を傾げる女王に笑みを送った。
2009.07.29.
お仕事宣言に気持玉激励をありがとうございました! 力出ました〜。
少し気温が上がったので書き流してみました。
昨日、懸案のお仕事エクセルと、お話ワードを交互に開けながら作業いたしました。
お仕事は終わったけれど、お話はどんどん延びてちっとも纏まりません(苦笑)。
そうすると短いものを書きたくなるのでございます。
夏の末声……夏故に暗くはなりませんでした。ああよかった。
さて、纏まらない長いものも早く仕上げてしまいたいです。
2009.07.29. 速世未生 記
(御題其の百二十)
ひめさま
2009/08/08 01:26
桜の樹に身体を預け緑の葉っぱに
抱かれている
乙女の姿が目に浮かぶようです
(はうぅ〜)。
未生(管理人)
2009/08/08 07:04
ひめさん、いらっしゃいませ〜。
まさにそれが降りてきた場面でございます。
思い浮かべてくださってありがとうございます!
見られていることに気づいたかの方の影が、ふっと笑って消えていくところまで想像して、
ちょっと泣けました。
これを泣かずに見ることができるのは、利広だろうな、と。
ああ、語りだすと本編より長くなりそうなので、この辺で。
メッセージ、ありがとうございました!