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御題其の二十三

天国と地獄

「──何故、牢を出ない? 鍵は開いておろうに」
「──」

 明朗な男の声がした。成笙は聞き慣れたその問いを背に受け、深い溜息を零す。が、その声を無視して黙々と鍛錬に励んだ。
 王に諫言して牢に籠められた。その王が斃れたと教えに来た者がいた。が、成笙は、王の赦免なくば牢を出ない、と言い放ち、以来ずっとここに居座っている。
 禁軍将軍として王と国を守ってきた。守るべきものを失い、何をすればよいのか。答を得ることはできなかった。ならば、新たに守るべきものができるまで、ここで力を蓄える。

「王の赦免なくば出られぬか? ならば、出るがよい」

 男は笑いを含んだ声でそう言った。成笙は思わず手を止めて振り返る。男はにやりと笑い、朗々と断じた。

「──俺が延王だ」

 不敵に笑う男を、成笙はまじまじと見つめた。男は目を逸らさない。やがて、成笙はおもむろに膝をつき、叩頭した。

「──主上の仰せのままに」

 新たに守るべきものを見つけた。

 成笙は心からそう思った。しかし──。
 その誇らしい気持ちは、新王から下賜された酔狂という字とともに脆くも崩れ去るのだ、ということを、その時の成笙は、露ほども知らなかったのだった。

2009.09.25.
 初書きの成笙でございます。 「滄海」を書いていたら、猛烈に書きたくなってしまい、ついつい書き流しました。 はい、頭の中は「天国と地獄」のメロディがぐるぐると回っております(苦笑)。 お粗末でした〜。

2009.09.25.  速世未生 記
(御題其の百二十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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