「目次」
「玄関」
御題其の百二十八
(末声注意!)
秋の執務室
かたり。
微かな音がする。聞いて筆を動かす手が速まっていく。
かたり。
待って。もう少し。
最後の文字を書き終えて、陽子は筆を置く。ざっと読み直し、慎重に御璽を押す。そして、決済済みの箱に放りこんだ。
かたり、かたり。
陽子は微かに揺れる大きな窓に駆け寄る。そうして、窓を開けて庭院に降り立った。
かさり、と乾いた音がする。秋風に散らされる黄赤の葉。淡い笑みを浮かべ、陽子は風に舞う落ち葉に手を伸ばす。
「──綺麗」
秋風に促されて見つけた、鮮やかな黄赤に染まる、桜の葉。そして気づく。桜が陽子を見守るのは、春だけではないのだ、と。
そっと桜の幹に寄り添った。桜は静かに葉を散らす。やがて、この庭も、黄赤の絨毯に覆われるのだろう。
綺麗なものを、素直に綺麗と思える。ただそれだけのことが、こんなにも嬉しい。
「綺麗……」
もう一度呟いて、陽子はゆっくりと唇を緩めた。
2009.10.22.
いつもの坂道が、綺麗な黄赤に染まってまいりました。 今年は例年よりもオレンジ色が綺麗なような気がいたします。 というか……昨年の今頃、私の視界はモノクロームだったので、余計にそう思うのかも。 はい、今年の秋は比較的元気な管理人でございます。
そんなわけで、秋の桜と陽子主上をお届けいたしました。 お楽しみいただけると嬉しく思います。
2009.10.22. 速世未生 記
(御題其の百二十八)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「目次」
「玄関」