御題其の百二十九
秋の情景
林の中には見事な黄赤の絨毯が広がっていた。風が吹く度に、紅葉した葉が雨のように落ちてくる。その乾いた音が耳に心地よかった。
「うわあ、綺麗!」
「色がよいうちに見せてやれてよかった」
歓声を上げる伴侶に笑みを返す。すると、意味が分からない、と伴侶は小首を傾げた。尚隆は笑い含みに答えた。
「雪が降る頃には、朽ち葉色に変わっているからな」
そうやって落ち葉は土になっていくのだ、と続けると、ああ、と伴侶は頷いた。そして、感慨深げに足許を見つめた。
「──ここでは、落ち葉は土になることができるんだね」
「そんなに珍しいことか?」
「蓬莱では、道に落ちた葉は、不要なものとして処分されていたから」
そう言って伴侶は淡く笑む。尚隆もまた悧角の背から見た蓬莱の街を思い出した。こちらとはあまりにも違う、あちらの世界。二度とは帰れぬだろう伴侶の故郷──。
何も言えずに細い肩を抱く。伴侶は尚隆を見上げ、そっとその身を預けた。
2009.11.21.
ほんとは昨日出そうと思った御題でございます。
アクシデント発生で、あえなく断念いたしました。
実は頭を秋に戻すために書き流したお話でございます。
今朝は真っ白でしたから、結構大変でした(苦笑)。
お茶濁しの小品ではございますが、よろしければお楽しみくださいませ。
2009.11.21. 速世未生 記
(御題其の百二十九)
ネムさま
2009/11/25 23:00
葉が落ち、陽光が漏れる林の光景、いいですね。
現在毎晩毎朝落ち葉掃きに追われている身ですが、
土の上に落ちればカサカサになって細かくなり、
ふかふかの土になれるのに勿体ないとよく思います。
だから陽子のこの感性がとても心地良く感じられました。
そして後ろから抱きしめる尚隆が土を覆う葉のお布団みたいに温かくていいなぁ、
なんて思いました(…濡れ落ち葉族なんて言葉もあったけど…
スミマセン、ロマンチックな感想だけで終われない奴でーー;)
未生(管理人)
2009/11/26 06:25
ネムさん、いらっしゃいませ〜。
アスファルトの上に落ちる葉は、厄介なゴミになってしまいますよね。
落ち葉掃き、お疲れさまでございます。
近くの坂道は林の中にあり、落ちる葉も半端ではございません。
秋の終わりには、ガードレールの下から林の中に落ち葉を落とし込む作業が見られます。
ここでは落ち葉はゴミにならないんだと思うと嬉しくなるのでございます。
──ちょっと濡れ落ち葉な尚隆を想像してしまいました(苦笑)。
メッセージ、ありがとうございました。