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御題其の百三十二

(末声注意!)

秋の緋桜

 窓を開け放った主が庭院に駆け降りていく。思いがけずそれを目にした浩瀚は、声をかけることができなかった。
 微風にはらはらと散る紅葉に、主は手を伸ばす。その朱唇が微かに動く。綺麗、と。その、懐かしげな、切なげな貌。
 そして主は、葉を散らす桜の幹にそっと寄り添う。まるで、物言わぬ桜の声を聞くかのように、瞳を閉じて。

「綺麗……」

 もう一度呟いて、目を上げた主は淡く微笑んだ。浩瀚は思わず息を呑む。

 ──それでも、あなたは、泣かないのですね。独りでいても、誰も見ていなくても。

 錦の衣に身を包む桜の木は、己に身を預ける女王を守るかのように、いつまでも葉を散らし続けていた。

2009.12.10.
 秋のお祭余波で閣下を書き流しました。 情景が見えてから言葉が降りてくるまでに結構時間がかかってしまいました。 ようやく胸の痞えが取れ、すっきりいたしました〜。
 ちなみに百二十八「秋の執務室」の浩瀚視点でございます。 浩瀚にエールを送ってくださったMさま、お気に召していただけると嬉しいのですが……。

2009.12.10.  速世未生 記
(御題其の百三十二)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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