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御題其の百三十三

(末声注意!)

初冬の風景

 綿毛のような雪が、優雅に舞い降りる。土に触れて儚く融ける淡雪を、女王は静かに見つめていた。まるで桜の一片を見つめているよう。そう思うと胸が小さく痛む。それでも、利広は女王から目が離せなかった。やがて。
「──綺麗だね」
 白い溜息に混じる微かな声。利広は微笑する。君のほうが綺麗だよ、と言いたいけれど、きっと淡い笑みを見せるだけだろう。だから、利広は女王が望む答えを返した。
「桜みたいだね」
「あなたもそう思う?」
 はたして、愛しい女は花ほころぶように笑う。利広は笑い含みに続けた。
「寒いけれどね」
「南国の人に付きあわせちゃってごめんね」
「君はきっとご褒美をくれるだろうから」
 思ったとおりの応えを引き出して、利広は朗らかに笑う。女王は大きく目を見張り、それから恥ずかしそうな笑みを見せた。

2009.12.17.
 先日、粉砂糖のような雪が降りました。 灰色の街を一変させる初冬の雪には、いつも心を奪われます。 陽の当たるところは融けてしまいましたが、真冬日なので、 ところどころにまだ雪が残っております。早く根雪になってほしいです。
 語り手が利広なのは、尚隆のお話に詰まっているからでしょう……(笑、えない)。

2009.12.17.  速世未生 記
(御題其の百三十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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