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御題其の百四十

(末声及び利陽注意!)

緋桜の告白

「今晩……堂室にお客を呼びたいんだけど……」

 陽子がぶっきらぼうに言う。何を言われているのか分からず、祥瓊は手を止めて陽子を見つめた。伏し目がちの陽子は、ほんのりと頬を染めていた。今、金波宮に滞在している賓客と言えば。頭を巡らせて、祥瓊は思わず息を呑んだ。
「お客さまって、誰?」
 鈴が不思議そうに問う。陽子は答えない。困惑する鈴に、祥瓊は笑みを送る。それから、ゆっくりと陽子に語りかけた。

「卓郎君を、お迎えするのね?」

「──え、陽子……」
 祥瓊は口を開きかけた鈴を静かに制した。笑みを湛えて見つめると、陽子は小さな声で応えを返した。
「うん……。いいかな……?」
 その声には不安と羞恥が入り混じる。女王のくせに、こうやって許可を求める、いつもながら誠実な陽子。祥瓊は陽子を抱きしめた。

 陽子が仲睦まじい伴侶を送ってからどのくらい時が経っただろう。淡い笑みを浮かべ、常に女王でいた陽子。誰も慰めることはできなかった。そっとしておくしかないと思っていた。
 いつしか風来坊の太子が現れて、伴侶を亡くした女王に求婚し始めた。陽子は真面目に取らなかったが、太子は本気だった。緋桜に害なす虫のような太子を、景王陽子の臣はみな疎んじた。けれど──。
 女王は陽子に戻り、太子を受け入れた。少なくとも祥瓊はそう感じた。陽子が望むのならば、それを受け入れよう。
「──用意をするわ」
「ありがとう……」
 消え入るようにそう言う陽子を、鈴もまた抱きしめた。涙が滲む目を向けると、陽子の穏やかな笑みが見えた。

 祥瓊は鈴とともに酒肴を運び、陽子の夜着を選んだ。翌日の着替えをも準備し、にっこりと笑って告げた。
「明日は起こしに来ないけど、きちんと起きるのよ」
 陽子は真っ赤な顔をして、それでも小さく頷いたのだった。

2010.06.03.
 御題其の百三十九「春風の誘い」後の祥瓊視点でございます。 こうやってちびちびとしか進んでいかない……(苦笑)。
 お粗末でございました〜。

2010.06.03.  速世未生 記
(御題其の百四十)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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