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御題其の百四十三

(末声及び利陽注意!)

ある日の遠景

 陽子が手を差し伸べる。風来坊の太子は微笑んでその手を引き寄せた。太子に身を委ねる陽子は安らいでいる。祥瓊は二人に気づかれぬようそっとその場を離れた。

(そろそろ私が必要な頃だと思ってね)

 そう言って笑う太子を、景王陽子の臣は緋桜に集る害虫のように忌み嫌っていた。けれど、気づけば太子の言うとおりになっていた。無論、途方もなく時間が経ってからではあるが。
 陽子は、あれだけ一途に想っていた伴侶にも、あんなふうに振舞うことはなかった。隣国の王はいつも、戸惑う陽子を否応なく抱きしめていたように思う。頬を染めて羞じらう陽子はとても可愛らしかったから、無理もないことだったのかもしれない。

 ああ──太子は、陽子が手を伸ばすまで待っているのだ。

 不意に祥瓊はそう思った。陽子は喪われた伴侶を忘れない。けれど、その想い出を手放すことなく共に歩めるひとを見つけたのだ。
 陽子が振り返るまで、その手を差し伸べるまで、ずっと待ち続けた気の長い御仁。そう、周りに疎まれ、邪険にされても、太子は朗らかに笑っていた。

 少し悔しい気がする。でも、陽子が幸せならば、それでいい。

 祥瓊は唇に笑みを浮かべ、そう思った。

2010.08.06.
 久しぶりの更新が末声とは……(苦笑)。しかも、今日の最高気温は32℃。 16時現在も31.1℃では私の頭もどうにかなるわけですね〜。
 降りてきた場面を色々な視点で書きました。 一番冷静に受け止めてくれたのが祥瓊でございました。 というか、久々に最後まで書けた小品と相成りました(ほっ)。

2010.08.06.  速世未生 記
(御題其の百四十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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