「目次」
「玄関」
御題其の百四十五
(末声及び利陽注意!)
刹那の想い
「──王さまの耳はロバの耳……」
微かに聞こえた声に、利広は微笑んで腕の中の愛しい女を抱き寄せた。何を聞いても驚かない。問い返しもしない。それは無言の約束だった。
「もし……子供が産めたなら……」
長い沈黙もいつものこと。緋色の髪を弄びながらゆったりと次の言葉を待つ。彼女の躊躇いは、微かな吐息に溶けた。
「あのとき、あなたを受け入れなかっただろう……」
うん、と頷いて、利広は震える朱唇を封じた。ごめんね、なんて言わせない。その言葉は、君をもっと傷つけるだろう。
抱きしめて髪を撫でた。今、君はここにいる。この腕の中に。それだけでいい。それ以上のことは求めていない。永い時をこの刹那のために費やした。この永い生は、そんな刹那の積み重ねだ。
微笑んで見つめると、揺れる瞳が淡い笑みを返した。
2010.09.21.
「獣の奏者」外伝「刹那」のうち、「刹那」を読了いたしました。 読んだ感想はしばらく胸に抱きしめていたい。そんな風に思います。 けれど、こう……突き動かされた感情を言葉に残したいと思い、書き流しました。 心はいつも揺らいでいるけれど、それでもこの刹那の想いを書き留めたくて こんなことをしているのかもしれません。
意味不明でごめんなさい。
2010.09.21. 速世未生 記
(御題其の百四十五)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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