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御題其の百四十六

供王の結論

 今日も書卓には書簡が山積みにされている。供王珠晶は筆を取り上げ、軽快に案件を捌いていった。その手がふと止まる。珠晶は筆を置き、じっくりとその書簡に見入った。読み終えて、珠晶は複雑な思いを抱きつつ立ち上がる。ひどい、と恨みがましく見つめていた紫紺の瞳が蘇った。

 供王の御物を盗んで出奔した芳国元公主孫昭は国外追放に処す。そう決めて、珠晶は命を下した。祥瓊は罰を受けるために既に恭に向かっているという。現れた元公主に処罰を伝え、その折の態度と言動の一言一句を間違わぬように記録せよ、と。
 孫昭は徹頭徹尾毅然としていた。国境の街より届いた書簡にはそう書かれていた。珠晶は苦笑する。ありがとうございます、と伏して謝辞を述べる祥瓊など、珠晶には未だ想像できないのだから。

「──人は変われるものなのね」

 そうひとりごち、珠晶はくすりと笑った。そうして、祥瓊を官吏に登用したという景王に思いを馳せる。あの利広をも惹きつけたという女王。彼女はどんな国を作るのだろう。それとなく見守るのも楽しいかもしれない。
「──利広の悪影響かしらね」
 肩を竦めて自嘲する。それから、珠晶は明るい気持ちで仕事を続けたのだった。

2010.09.26.
 御題其の百十三「供王の思惑」@夜話(本館)連作「僥倖」及び祭掲示板に投下した 「十二国記で12題」其の六「毅さ」の連鎖妄想続編になります。
 「毅さ」にくっつけようかなとも思ったのですが、祭に出すには 拙作本編の連鎖妄想過ぎるのでこちらに上げました。 こんな捏造交じりの幕間話は私の大好物でございます。 皆さまにもお楽しみいただけると嬉しく思います。

2010.09.26.  速世未生 記
(御題其の百四十六)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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