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「玄関」
御題其の百五十
変わらぬ想い
恋をしたのは十六の時だった。
初恋だった。初めての恋が、今なお続いている。続いている、と思っているけれど。陽子は立ち上がり、鏡に向かった。
ときどき不安になる。鏡を見ても、姿は十六のまま。神籍に入り、王となってもう幾年過ぎたか分からなくなった。
もしかして、時が過ぎたと思うこと自体が錯覚なのかも。
それくらい、寸分違わぬ自分が鏡の向こうから見つめ返してくる。そして、鏡の中の陽子の隣で笑うひとも、あの頃のまま。
「え……」
陽子は慌てて振り返る。いつの間に来たのだろう。こんなに際立つ気配を読み取れないなんて、修行が足りなすぎる。そんなところまで変わらないなんて。そう思うと悔しくてならなかった。
「──
尚隆
(
なおたか
)
」
「我が伴侶は、見とれるくらい美人だろう?」
「──莫迦げたことを」
自分の顔に見とれるわけなどなかろう。顔を蹙めてそう返すと、伴侶は意地の悪い笑みを見せる。それから、口を開こうとした陽子の動きを止める一言を放った。
「お前は、変わらないな」
「──」
陽子は目を見張る。あれほど抱えていた不安が、伴侶の一言で融け去った。陽子はゆっくりと唇を緩める。
「あなたも、変わってないね」
抱き寄せる腕に素直に身を任せ、小さな声で呟いた。軽口も意地の悪さもあの頃と同じ。そして、陽子の心を解くその大きさ、温かさも、月日を経てなお変わらない──。
くつくつと笑う伴侶は、それ以上何も言わずに優しい口づけをくれた。
2010.11.30.
「悪霊だってヘイキ!」を読了いたしました。 噂には聞いていたのですが、読後感が切ないお話で、浸ってしまいました。 リライト版がますます楽しみになりました。 まあ、怖いから買って手許に置く度胸はないのですが……。
内容はこの小品とは全然関係ございません。 けれど、感極まった想いを昇華してみました。お粗末さまでございました。
2010.11.30. 速世未生 記
(御題其の百五十)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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