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御題其の百五十三

六つの華

 粉雪が舞う。それは、ふわりふわりと踊る白い冬の精のよう。陽子はそう思い、そっと手を伸ばした。手袋の上に舞い降りる妖精は、枝を伸ばす六角形。
「綺麗……」
 そういえば、雪をこんなにまじまじと見るのは初めてかもしれない。雪の結晶が、こんなにはっきりと見えるなんて知らなかった。そしてそれは、ひとつひとつが全て違う形をしている。
 陽子は宙に両手を差し出して、次々に落ちてくる雪を受けとめる。そうして美しい六角形の結晶に見入った。いつまで見ていても見飽きない、そう思う。それなのに。

 突然後ろから抱きしめられて、陽子は文字どおり飛び上がった。慌てて振り向くと、人の悪い笑みが目に入る。悪戯好きの伴侶の黒髪には、たくさんの雪が積もっていた。陽子は目を見張り、それから、ゆっくりと唇を緩めて微笑む。伴侶は怪訝な顔をした。
「──珍しく怒らないのだな」
「だって、今まで待っていてくれたんでしょう?」
 雪がたくさんついてるよ、と告げると、伴侶もまた楽しげに笑う。そうして、陽子を抱きしめたまま共に雪を眺めた。

「六つの華、だな」
「むつのはな?」
「雪のことだ」

 六角の形をしているだろう、と伴侶は笑う。雪華。六つの花弁を持つ、白い華。美しい言葉だね、と背の温もりに応えを返し、陽子は舞い降る六つの華を眺め続けた。

2011.01.03.
 年末帰省にて美しい雪の結晶を見ました。 ずっと忘れていたけれど、故郷では、雪がひとつひとつ降るのでございます。 もっと暖かい時には沢山くっついているのだけれど、ね。
 黒い手袋の上には、次々と樹枝状六花や扇状六花が舞い降りてまいりました。 時が経つのを忘れるほど綺麗でございました。

2011.01.03. 速世未生 記
(御題其の百五十三)

ネムさま

2011/01/04 10:23

 明けましておめでとうございます。
 今年もこちらは美しい文章と情景から明けましたね。 厳しい季節ほど削ぎ落とされた美しさにハッとさせられることが多いですが、 そうした中、二人のやりとりの暖かさがまた際立ちます。
 今年も更なるご活躍をお祈りしております。

未生(管理人)

2011/01/04 16:23

 ネムさん、明けましておめでとうございます。ようこそいらっしゃいました〜。
 書き流した御題をお褒めくださり、ありがとうございます。 厳しい季節だからこそ、冬が好きなのかもしれません。 陽子と尚隆も冬と雪を楽しむ人であってほしいとの私の願望がありありと 表れているでしょうね。
 冬来たりなば春遠からじ。 またどうぞよろしくお願い申し上げます。 メッセージ、ありがとうございました!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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