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御題其の百五十七

違和感の原因

 突然の来客をもてなすよう命を受け、女御鈴は国主の執務室へと急ぐ。とはいえ、例の如く、延王襲来だ。隣国の王の訪問は、鈴にとっては既に馴染みのものであった。
 失礼します、と声をかけ、鈴は室内に足を踏み入れる。どうぞ、と答える景王陽子の声は常よりも硬かった。一礼をして顔を上げ、鈴は首を捻った。
「あの……どうかなさいましたか?」
「どうかしたように見えるか?」
 ゆったりと榻に腰を掛けた延王尚隆が笑い含みに問い返す。鈴は答えに窮した。
「いえ……」
 そう答えたものの、どうにも違和感が残る。首を傾げていると、賓客は面白そうに鈴を見返してきた。その様子はいつもと何ら変わりがない。が──。
 鈴はふと友でもある女王を見た。手を止めずに書簡を片づけていく陽子は、仕事をしているようで、どこかぎこちない様子だ。ああ、と鈴はやっと違和感の原因に思い当たった。

 鈴が来てから、陽子は一言しか発していないのだ。

「──陽子はご機嫌斜めなのだ」

 得心がいった鈴を見て、延王尚隆は飄々とそう呟いた。その途端。

「誰のせいですか誰の!」
「さあ?」
「あなたのせいでしょうが!」
「俺のせいなのか?」
「ああもう、苛々する。黙っててください!」
「そう言われてもな。黙っていると退屈だ」
「私は忙しいんです!」

「ああ……何でもないですね。よかった」
 怒涛のように始まったいつもの遣り取りに、鈴は安堵の息をつく。白熱した言い合いを繰り広げる二人の王がその呟きに答えることは無論なかった。

2011.03.03.
 もしもし? 鈴さん、納得しちゃうんですか?
 久々にお仕事以外でワードを開けました。 も少し色っぽいものを書きたかったのですが、上手くいかないものでございますね〜。 半月ぶりの更新がおバカなものでごめんなさい!

 (実は御題其の百五十五「家苞の波紋」直後の鈴視点でございました〜。 何が起きていたか知ったら、鈴は何と言うでしょうね? 2011.07.05.追記)


2011.02.15. 速世未生 記
(御題其の百五十七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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