御題其の百六十
(末声及び利陽注意!)
桜語後日譚
「じゃあ、またあとで」
いつになく和やかな夕食を終えた後、賓客はそう言って爽やかに笑った。陽子は控えめに笑みを浮かべ、小さく頷く。風来坊の太子の訪れを喜ばない陽子の友人たちは少し顔を蹙めたが、珍しく何も言わなかった。そういえば、昼に二人で桜を眺めていたときにも、祥瓊は利広に酒肴を用意してくれていた。
(どうやらお許しが出たようだね)
利広はそう言って笑った。その言葉の意味を、今になってやっと理解できたような気がする。意を決し、二人の旧友に小さな声で告げた。
「今晩……堂室にお客を呼びたいんだけど……」
少しだけ緊張した。恥ずかしさに頬が染まる。けれど、利広の想いを受け入れたことを、古くからの友たちには認めてほしかった。陽子の突然の発言に、祥瓊は息を呑んで黙し、鈴は不思議そうに訊ねる。
「お客さまって誰?」
鈴の問いに答えられず、陽子はただ俯いた。頬が燃えるように熱い。しかし。
「──卓郎君を、お迎えするのね?」
祥瓊は確信を持った声でそう訊ねる。顔を上げると、紫紺の瞳が真っ直ぐに見つめていた。心配そうに声を上げる鈴を目顔で制し、祥瓊は陽子に答えを促した。
「うん……。いいかな……?」
視線を祥瓊に向けたまま、陽子は呟くように応えを返した。今まで反対の姿勢を崩すことなかった祥瓊が、柔らかな笑みを浮かべて頷いた。そのまま細い腕を伸ばし、祥瓊は、ぎゅっと陽子を抱きしめて優しく囁いた。
「──用意をするわ」
「ありがとう……」
祥瓊を抱き返し、陽子は小さく礼を述べた。胸の奥が熱くなっていく。視線を移すと、瞳を潤ませた鈴が駆け寄ってきた。初めて打ち明け話をしたあの頃のように、三人は抱き合った。
それから二人は酒肴を運び、陽子の夜着を選んだ。まるで伴侶在りし日のようだ、と思いつつ、口にはできなかった。支度を調える二人も黙したまま。それでも。
明日の着替えの準備まで終えて、祥瓊と鈴はにっこりと笑みを浮かべ、顔を見合わせる。小首を傾げる陽子をよそに、祥瓊は笑みをほころばせたまま宣告した。
「明日は起こしに来ないけど、きちんと起きるのよ」
意味が分からない。
祥瓊も鈴もにやにや笑うだけでそれ以上何も言わなかった。やっと言葉の意味を理解して、陽子は再び頬を朱に染める。そんな陽子の肩を叩き、友たちは退っていったのだった。
2011.05.17.
御題其の百四十「緋桜の告白」の陽子視点で、
題名のとおり短編「
桜語」の後日譚でございます。
はい、お解りかとは思いますが、何もかもに詰まっての発散更新でございます。
あ〜あ。
間に合うかどうか甚だしく疑問ではございますが、頑張ってまいります〜。
2011.05.17. 速世未生 記
(御題其の百六十)
ひめさま
2011/05/18 00:48
お久しぶりでございます。
あ〜つくづく庶民であってよかったと思いますわ〜(笑)
お祭りも期限が切られたというのに……
管理人さまご健闘をお祈りしております!
未生(管理人)
2011/05/18 05:59
ひめさん、いらっしゃいませ〜。
こちらも忘れないでいらしてくださって嬉しいです!
だ・け・ど。
あんまり小憎らしいことをおっしゃるなら宿題出しちゃいますよ!
祭終了までに何か提出してください(笑)。
喜びも苦しみも共に分かち合いましょう(爆)。
エールをありがとうございました!
ひめさま
2011/05/20 15:31
……置いてきました〜〜(笑)
未生(管理人)
2011/05/20 17:25
──(爆)! 早い! 私も頑張ります〜。
ありがとうございました!