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御題其の百六十七
(末声注意!)
淡く儚く
傾きかけた陽が、鮮やかな黄赤の樹々を黄金色に照らす。高く澄んだ蒼穹に映えるその色を、景王陽子は眩しげに眺めていた。そして、女史祥瓊はそんな女王を少し離れて見守っていた。
時折吹く風に舞う黄葉に手を伸ばす陽子は、唇を微かにほころばせる。その笑みは淡く儚く、目を離すと消えてしまいそうだった。
儚いところが好きだ。
かつて女王の伴侶はそう言った。驚く祥瓊と鈴に、そう簡単に見られるものではない、と続け、かの方は呵々大笑した。あれから幾歳が過ぎたことだろう。朗らかに笑う隣国の王も、登遐して久しい。
何故、今、そんなことを思い出してしまったのだろう。喪われた女王の伴侶の笑声が、耳許で聞こえるような気がするのだろう。
行かないで。まだ、逝かないで。
我知らず駆け出す。迸りそうな言葉を呑みこんで、祥瓊は友の肩に後ろから蹙みついた。
「祥瓊?」
振り返った陽子は大きく目を見張っていた。祥瓊は何も言えず、首を横に振るばかり。そして、細い肩を掴む手に力を籠めた。
「──いかないよ」
やがて、陽子は静かにそう言った。祥瓊の潤んだ瞳に映る女王は、儚げな太陽のような笑みを浮かべている。その美しさに、祥瓊は声を失った。
いかないよ。まだ、逝かないよ。
口に出さない言葉が聞こえる。淡い陽光は、いつか訪れる現実を象徴しているかのよう。
そう、いつか、陽子も逝ってしまうのだろう。
かの方が愛した儚げな太陽を見つめ、祥瓊は一筋の涙を零した。
2011.10.19.
突然の訃報に驚きつつ、叔母の通夜と告別式に参列してまいりました。 様々な思い出や交わされた会話が絡み合い、胸中は複雑でございます。 昔、盆暮れに我が実家にて集った人々が一人欠け二人欠け、 その欠けた人を悼むためにまた集うという現実に物悲しさを感じております。
まだ心臓がバクバクしております。 己を落ち着かせるために書き流した小品でございます。末声で失礼いたしました。
2011.10.19. 速世未生 記
(御題其の百六十七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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