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御題其の百七十四

初夢祈願

 一富士二鷹三茄子、ついでにパジャマは裏返し――。

 年末年始の行事を終えて私室に戻り、陽子はほうと溜息をついた。一年の内でも忙しない時期。それだけに、義務を終えると虚脱する。そして、なかなか会うことができない伴侶への思慕が募るのだ。

 せめて、夢を見られますように。

 蓬莱の初夢祈願を思い出し、よい夢を見るための小物をこっそり用意した。富士山はこちらにはないから、不本意ながら自分で絵を描いた。それから、好きな人の夢を見られるというおまじないも試してみようと思った。

 どうせ夜着など誰も見ないし。

 準備万端整えた陽子は、美しい月の光を見ながら眠りについたのだった。

 強い願いは叶うもの。それとも、信じる者は救われるのだろうか。首尾よく夢に伴侶が現れた。手を差し伸べて、ぎゅっとしがみつく。伴侶は優しく笑い、陽子を抱きしめてくれた。しかし――。

「陽子……夜着が裏返しだぞ」

 訝しげにかけられた声。陽子は一気に目を覚ました。
「な、な、な……」
 咄嗟に出た言葉は悉く意味不明。なんで。尚隆。なんでもない。言いたいことはひとつも言えぬまま。
「――まあよい」
 どうせ脱ぐことになるし、と伴侶は意地悪く囁く。陽子はただただ頬を熱くするばかりであった。
 夢が現になった驚きも喜びも、その他諸々の想いも全て、甘い口づけに呑まれていく。難しいことは後回しでいい。このひと時に身も心も委ねよう。陽子はそう思い、目を閉じた。

「――で、どうして夜着が裏返しだったのだ?」

 翌朝の意地悪な質問には結局答えを返さなかった陽子であった。

2012.01.03.
 ほんとは昨日出したかった今年の第一弾でございます。 ブログに直接書き流したのは久しぶりかもしれません。 お粗末でございました〜。

2012.01.03. 速世未生 記
(御題其の百七十四)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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