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御題其の百八十三
若木の想い
(期待してるよ、蘭桂)
鮮やかな笑みと温かな声。繰り返し思い浮かべては唇を緩める。と同時に、身が引き締まる言葉でもあった。そう、蘭桂の養い親は、国主景王。
金波宮を出て瑛州の少学に入り、蘭桂は己の育った環境がかなり特殊だったことに気づかされた。太師邸にて奄として働きながらも、接する人々はみな、王の側近中の側近。本来ならば、顔を上げることすらも許されない、雲上の住人ばかりだったのだ。
桂桂、と胸に浮かぶ美しい顔が蹙め面を見せた。蘭桂は苦笑する。蓬莱生まれの女王は、身分など軽々と飛び越えてしまうのだ。
陽子、そろそろ七夕だね。
この時季にはいつも庭院に笹を立て、願い事を認めた短冊を飾った。五色の短冊を皆に配るのは、蘭桂の役目であった。心優しい女王は、今年も、皆の願いが叶いますように、と短冊に願い事を書くのだろうか。そんなとき。
蘭桂宛てに書簡が届けられた。目立たぬように書かれた名前は冢宰のもの。蘭桂は目を見張る。急ぎ開けた中には、色鮮やかな料紙と短い手紙が入っていた。蘭桂は笑みを浮かべ、ゆっくりと丁寧に短冊に願い事を認める。
陽子の願いが叶いますように。
景王として国を担う生真面目な陽子が、人として幸せでありますように。想いを籠めて書いた短冊に笑みを送る。そうして短い手紙を書きつけた。一言、元気です、と。
細やかな気遣いをみせてくれた冢宰に感謝の言葉を書き綴り、蘭桂は目を閉じる。七夕の笹は五色の短冊を下げて重たげに揺れ、蘭桂の書いた短冊を飾る女王は、鮮やかに笑んでいた。
2012.08.24.
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なんで今更また七夕……。はい、本日は旧暦の七夕でございます。 今年の七夕話の締めとして蘭桂にご登場願いました。 御題其の百八十一「七夕を前に」及び百八十二「冢宰の密かな楽しみ」の 蘭桂視点でございます。お楽しみいただけると嬉しいです。
2012.08.24. 速世未生 記
(御題其の百八十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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