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御題其の百八十七

めりーくりすます

 冬至が無事に終わった。新年に向けて多忙な日々が過ぎていく。その中でぽっかりと予定が空いた日、延王尚隆はこっそりと騎獣を自室に引き入れた。

「今夜は贈り物を持って行けよ」

 特別な日だから、と後ろから声をかけられても尚隆は振り返らなかった。出奔の邪魔をされては堪らない。声の主は分かっている。王の半身、延麒六太だ。しかし。

「陽子によろしくな」

 六太は珍しくも悪態をつくこともなくそう続けた。怪訝に思って振り向くと、六太は片目を瞑って楽しげに笑っていた。片手を挙げてそれに応え、尚隆は騎獣を促す。騎獣は軽々と蒼穹へ舞い上がった。

 雲海の上を駆け続け、高岫山を越え、伴侶の住む金波宮へと向かう。目指す堂室の露台にふわりと降り立ち、そっと大きな窓を開けて身を滑りこませた。
 暖かな堂室は馥郁とした茶の香りに包まれていた。我が伴侶は手ずから茶を淹れてひと息ついていたのだろうか。大きく目を見張って驚く貌が愛らしく、尚隆は唇を緩めた。
「──どうして?」
「暇ができたからな」
 小さく訊ねる伴侶に簡潔な応えを返し、華奢な身体を抱きしめる。伴侶は、ほう、と息をついて尚隆に身を預けた。

「――めりーくりすます」


 伴侶は小声で囁く。意味が分からない。目線で訊ねると、伴侶は何も言わずに眩しい笑みを見せた。思わず見蕩れる尚隆の首に、伴侶は細い腕を絡める。常ならぬ積極的なその誘いに、尚隆はすぐに応じたのだった。

「めりーくりすます、とはどういう意味だ?」
 腕の中で安らぐ伴侶に訊ねてみる。伴侶は微笑んで蓬莱の行事を教えてくれた。尚隆は納得する。そういえば、六太が特別な日だと言っていた。
「――何も持たずに来て悪かった」


「ううん、あなたが来てくれて嬉しかった」

 素敵な贈り物だよ、と伴侶は頬を染める。尚隆はいつになく素直で可愛らしい伴侶をきつく抱きしめる。そして、甘く長い口づけを贈ったのだった。

2012.12.25.
 メリー・クリスマス! 北の国はクリスマスらしく真っ白粉雪でございます。 そして激烈にシバレました。 最低気温、我が街は−13.5℃、隣街はなんと−23℃でございます。 ストーブの火をこんなに大きくしたことはございません……(しくしく)。

 気を取り直します。 御題其の百五十一「聖なる夜に」尚隆視点をお送りいたしました。 ほんとはイヴに出したいお話でございました。 書けば書くほど長くなったものをばっさり削いで出してみました。 お楽しみいただけると嬉しく思います。

2012.12.25. 速世未生 記
(御題其の百八十七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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