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御題其の二百三

緋色の花

「その花が枯れるとき、国は滅ぶ。そう言われる花があると聞いた」

 景王陽子は歌うようにそう言った。見てみたいものだ、と伴侶は続ける。延王尚隆は片眉を上げて即答した。
「迷信に過ぎぬ」
「景麒と同じことを言うね」
 伴侶は楽しげに笑った。慶の麒麟の渋面を想像し、尚隆もにやりと笑う。しかし、王が発する言葉としては、臣を動揺させる不吉なものであることに変わりない。そう指摘しても、慶主は動じることなかった。それどころか、意外なことを言ってのけた。

「花が枯れても国が滅ぶことなどないよ」

 あなたが言ったことでしょう、と景王陽子は鮮やかに笑う。

「折山の荒、亡国の壊、と言われた雁にも三十万の民が残っていた、と教えてくれたよね。だから、私が斃れても、慶自体が滅ぶことはない」

 景王陽子はそう続けた。宝玉のような翠の瞳は勁く輝き、延王尚隆を惹きつける。そう、初めて出会ったあの時と変わらずに。咲き初めの姿のまま時を止めた緋色の花。散ることも実を結ぶこともなく今も美しく咲き匂う。
「迷信の花など探す必要はない」
 尚隆は笑みを湛えてそう告げる。そして、反論しようと目を上げた伴侶をそっと抱き寄せた。そのまま耳許で囁きかける。

「枯れぬ花ならここに咲いている」

「え、どこに?」
 慌てたように首を巡らせる伴侶に笑みを返し、甘く口づける。愛おしいこの花が枯れたとき、己の中の慶が滅ぶのだろう。尚隆は胸で密かに呟いた。

2014.06.29.
 いつも拍手をありがとうございます。 漸く更新できました。もう日曜日でございますね(苦笑)。

 金曜土曜と調子を崩して午後撃沈しておりました。 特に土曜日、5時間昼寝してもまだ寝れる状態でして(苦笑)。 恐らく寝不足に夏バテが重なったのでしょうね〜。

 そんなわけで、某さま6/21企画物でございます。 こちらの企画は今回で最後だそうで……。 一度も正規参加できず残念でございました。 今回のお題は「この花が枯れたとき、」 でございます。

 「緋色の花」、時代的には「滄海」後と想定しております。 ほんの短いものではございいますが、お楽しみいただけると嬉しゅうございます。

2014.06.29.  速世未生 記
(御題其の二百三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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