「目次」 「玄関」 

御題其の二百二十三

花の笑顔

 笑いさざめく声がする。回廊を連れ立って歩く三人の娘たち。そこにいるだけで場が華やぐ慶国三人娘は、それぞれが趣の違う美しさを持っている。左将軍桓魋かんたいは思わず感嘆の溜息をついた。まるで花のようだ。そう思ったとき、だしぬけに後ろから声がした。

「まるで花のようだな」

 桓魋はぎょっとして振り返る。そこには虎嘯がにやにやと笑いながら立っていた。国主の警護を務めるはずの大僕に、左将軍は苦言を呈す。
「驚かせるなよ……。仕事中じゃないのか、虎嘯」
「一応忠告しておこう」
 大僕虎嘯は不意に真面目な貌を見せた。つられて桓魋も姿勢を正す。虎嘯は声を潜めて続けた。

「聞こえたぞ」

 腕組みをした虎嘯は人の悪い笑み浮かべてそう告げる。桓魋は今度こそ大きく眼を瞠って絶句した。まさか、思いを口に出していたとは。虎嘯は桓魋の肩を何度も叩き、可笑しそうに大きな肩を震わせる。桓魋は深い溜息をついた。虎嘯はにこやかに続ける。
「巧いたとえだな」
 折しも庭院には桜が咲いていた。国主景王とその側近たちは花見を楽しんでいる。大僕虎嘯は警護対象から眼を離さずにそう言って笑んだ。桓魋は肩の力を抜いて己も桜と娘たちを眺める。そうして小さく呟いた。

「祥瓊は華やかな八重桜だな」
「それなら鈴は可愛い山桜だ」

 確かに女史祥瓊は典雅で華やかな美貌を誇り、女御鈴は清楚で可愛らしい。男たちは顔を見合わせ、互いのたとえを褒め合った。そんなとき。

「――ここで怠けている者に花見酒を出すわけにいかないな」

 涼やかな声がかけられて、二人は同時に振り返る。そこには書箱を抱え持つ冢宰が立っていた。
「浩瀚さま!」
「いい大人がそう騒ぐな。ほら、主上も呆れておられる」
 そう言いつつ、冢宰浩瀚は庭院に立つ国主景王に恭しく拱手する。景王陽子は苦笑を浮かべていた。左将軍と大僕は急いで職務に戻ろうとする。そんなとき。

「――鮮やかな緋桜だな」

 密やかな声がして、桓魋と虎嘯は立ち止まる。怜悧な冢宰は振り返ることなく国主の執務室へと入っていった。二人は同時に顔を見合わせ、また庭院に眼を戻す。微風に緋色の髪を靡かせる麗しき女王がそこにいた。
「さすが」
 冢宰の機知に一言感想を述べて、二人は笑い合う。庭院には美しき花の笑顔がほころんでいた。

2016.05.14.
 ツイッター上で開催されている「#十二国記絵描き文字書き60分一本勝負」 第15回「花」というお題で書いてみました。今回もリアル参加でございます。

 末声物を完成させて頭がハイになりました。 今回は執筆40分、只今あせあせと推敲してアップしております。いい時間になるかな?

 絶賛桜祭開催中、桜前線もめでたく終着いたしました。 末声の揺り返しで明るい小品を書けて満足しております。 お楽しみいただけると嬉しく思います〜。

 後程祭の方のレスに向かいますね〜。

 玄関に祭会場へのリンクを張りました。どうぞご覧くださいませ。 サイトはブログ左のバナーより入れます。 スマートフォンからは記事の下、「最新記事」「カテゴリ」「リンク」とある中の リンクからお入りください。皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

2016.05.14.  速世未生 記
(御題其の二百二十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「目次」 「玄関」