「目次」 「玄関」 

御題其の二百二十七

星の誓約

「――あら?」
 小卓の上に置かれた紙を見て、祥瓊は小首を傾げる。細長く切った料紙、認められた一文は「陽子の願いが叶いますように」とあった。鈴の手蹟だ。祥瓊はあたりを見回したが、鈴の気配はない。もう仕事を始めているのだろう。祥瓊は料紙を手に取り、己も主の堂室へ向かった。

 祥瓊は国主の私室に辿りつく。景王陽子は既に起き出して朝の支度を済ませていた。
「おはよう、陽子」
「おはよう、祥瓊」
 朝の挨拶を交わす。陽子はにこやかに笑っていた。祥瓊は陽子にそっと料紙を差し出す。

「ねえ、これ、なんの呪なの?」

 陽子は大きく眼を瞠り、息を呑んだ。この奇妙な紙が何を知っているらしい。料紙を手に取って微笑む陽子に、祥瓊は焦れる思いを隠さずに訊ねた。
「蓬莱のまじないなの?」
「うん。昨日は七夕だったんだ」
 それから、陽子は蓬莱の星祭について語ってくれた。蓬莱では七月七日に七夕という星祭を行う。織姫と彦星が年に一度だけ会えるその日には、竹や笹を立て、五色の短冊に願い事を記して飾る。そうすると願いが叶うと言われているそうだ。

「昨日、星を眺めていたんだ。織姫と彦星が会っているのかな、会えているといいな、と思って」

 そうしたら鈴が現れて、きっと会えているわよ、と言ってくれた。そう続けて、陽子は眩しい笑みを見せる。祥瓊も大きく頷いた。鈴は陽子のために短冊を作って願いを認めたのだ。祥瓊は問いを重ねる。
「それで、結果は?」
「織姫が彦星に会う夢を見たよ」
「よかったわね」
 祥瓊が返すと、陽子は嬉しそうに笑った。胎果の陽子がこんなふうに蓬莱の話をすることは珍しい。ほんとうは、蓬莱が恋しいのだろうか。けれど、祥瓊はその問いを陽子にぶつけることはしなかった。陽子は女王なのだから。

 蓬莱を恋う王。

 そんなふうに言われることは陽子の本意ではないだろう。それでも。

 こっそりと星に願いをかける可愛い陽子のために、来年はひっそり七夕の準備をしよう。きっと、鈴も協力してくれるだろう。祥瓊は空を見上げ、朝の光に隠れて見えない星にそっと誓うのだった。

2016.06.25.
 いつも本宅及びブログ、そして祭跡地にも拍手をありがとうございます。

 ツイッター上で開催されている「#十二国記絵描き文字書き60分一本勝負」 第18回「星に願いを」というお題で書いてみました。今回もリアル参加でございます。

 執筆50分、只今あせあせと推敲してアップしております。間に合うかな〜。

 七夕のお話は沢山書いていたため、 かなり自作を読み返すという苦行の果てに書いた 御題其の七十六「七夕の種明かし」の祥瓊視点でございます。 お楽しみいただけると嬉しゅうございます。

2016.06.25.  速世未生 記
(御題其の二百二十七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「目次」 「玄関」