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御題其の二百三十二

宴の狐狸

 いつも世話をかけてばかりの太師に感謝を伝えたい。真面目な貌でそう切り出した桂桂に、陽子は満面の笑みを返す。
「蓬莱にはご老人を敬う祝日があるんだよ」
 敬老の日というんだ、と続けると、桂桂はぱっと明るい顔を見せる。それからは、鈴や祥瓊をも交え、陽子は桂桂と敬老の宴の企画を立てたのだった。

 ささやかな宴は、慶主の執務室から見下ろせるいつもの庭院で開かれた。心尽くしの料理と飲み物が振る舞われ、景王の側近たちが太師のために集った。皆の笑顔に、遠甫は目を細めて坐している。宴もたけなわとなったとき、ふらりと意外な人物が現れた。
「延王……。相変わらず鼻がよいですね」
「陽子、お前も言うようになったな」
 呆れた声を上げる景王陽子に、隣国の王は呵々大笑する。気儘な賓客の訪れに慣れている女史と女御はすぐに新たな席を作り、茶や料理でもてなした。
「今日は何の宴なのだ?」
「敬老の宴です。ああ、延王にぴったりですね」
 鷹揚に席に着く延王尚隆に、景王陽子はにっこりと返す。尚隆は片眉を上げた。陽子は尚隆の反論を身振りで止めて口を継ぐ。

「延王はいつも『老骨を労われ』とお叱りになるじゃないですか」

 陽子が言い放った軽口に、女史と女御は吹き出すのを堪え、他の者たちは目を白黒させていた。しかし、太師遠甫は動じることなく大きな笑声を上げる。

「――延帝、これは一本取られましたな」
「――成程。本日の主役の言葉には穏和しく従うとするか」

 尚隆はにやりと笑って茶杯を掲げる。遠甫はゆったりと己の茶杯を合わせた。二人の主賓の乾杯に場は和み、歓談が始まる。やがて、陽子はふと疑問に思ったことを言葉にした。

「ところで、延王と遠甫はどちらが歳上なんですか?」

 陽子が投げかけた質問はその場に響き渡り、誰もが動きを止める。一同は延王と太師を交互に見つめ、固唾を呑んだ。延王尚隆はくつくつと笑う。

「陽子。こんなに若い俺が太師より歳上だと言うのか?」
「主上。五百年玉座におられる延帝より儂が歳上じゃと仰るか」

 太師遠甫は可笑しげに笑う。二人はいったいどちらが歳上なのだろう。老獪な狐と狸の真の年齢は、その場にいる若い者たちには永遠の謎なのであった。

2016.09.20.
 皆さま、いつも黄昏祭に拍手をありがとうございます。

 さすがに更新し損ねるとこちらの拍手は閑古鳥でございます(苦笑)。 なので、敬老の日に因んだワンライに挑戦してみました。

 ツイッター上で開催されている「#十二国記絵描き文字書き60分一本勝負」 第24回「お年寄りを敬おう!」 というお題で書いてみました。 本来は17日、今回は遅刻参加でございます。 敬老の日に書き終えることができず、残念でございます〜。

 ワンライ当日は東の街に遠征いたしました。 移動中は寝てばかりでぽちぽち書くことができず、 それでも少しずつ妄想を進めて本日執筆65分。案外てこずりましたね〜。 狐と狸が化かし合ったせいでございましょう(苦笑)。

 そんな拙い小品ではございますが、お楽しみいただけると嬉しゅうございます。

 黄昏祭、拙宅にて絶賛開催中でございます。

 また、本日より開催の葵さん宅「箱祭り」にも先陣を切ってまいりました!  もう、どんだけ祭好き(苦笑)。よろしければ葵さん宅にてご覧くださいませ〜。 葵さん、拙作をお受け取りくださりありがとうございました!
 葵さん宅「時雨庵」は 祭リンク集よりお入りくださいませ。

2016.09.20.  速世未生 記
(御題其の二百三十二)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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