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常世語のお題(尚陽編)

急ぎ足の女御じょご

 隣国の王到来との報せを受けて、女御鈴は急ぎ足で景王陽子の執務室に向かった。忙しい女王の許に気儘に現れる賓客を、主の代わりにもてなすために。
 執務室からは明るい笑い声が響いている。失礼します、と鈴は中に入る。そこには朗らかに話す隣国の王と、笑い声を立てながらも手を止めることない女王がいた。
 語らう二人の邪魔をせぬように、鈴は手早く茶を淹れた。恭しく茶杯を差し出す鈴に微笑を向けながら、隣国の王は女王に文句をつける。
「お前は相変わらず俺のもてなし方を知らぬな」
「お年寄りはお身体を労わったほうがよろしいですよ」
 澄まして答える女王に、隣国の王は大仰に顔を蹙める。それを見て鈴は小さく吹き出した。気忙しさを忘れさせる、楽しくも優しい時間であった。

2007.06.11.
 短編「睦言」あたりの一場面でしょうか。 鈴はまだ気づいていない感じの仕上がりとなりました。 最初はやはりほのぼのでいきましょう。

2007.06.23.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「い」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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