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常世語のお題(尚陽編)

遠方から来たらん

「──絶対にお前を泣かせてやる」

 はるばる隣国からやってきた鸞は、一声そう鳴いた。笑いを含んだ男の、あまりにも朗らかなその声。先日男から受けた、数々の無礼な仕打ちを思い出し、景王陽子は拳を白くなるほど握りしめた。

 あの男、どこまで私を怒らせれば気が済むんだ。

 胸でそう呟くと、最愛の伴侶であるはずの隣国の王に対する怒りが沸々と湧いてくる。
 いっそ首を絞めてしまおうか。声を運んだだけの罪もない鸞を睨みながら、景王陽子はそんな気持ちを抑え、何度か深呼吸をした。
 そう簡単に乗せられてなるものか。そう思うことが既に人の悪い伴侶の思う壺なのだと、陽子は未だ知らずにいた。

2007.06.11.
 短編「慶賀」結──喜涙でさらっと書いた一場面の、陽子主上の胸の内でございます。 そうそう、主上、鸞の首を絞めても何にもならないよ〜、と思いながら書きました。

2007.06.23.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「え」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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