「目次」
「玄関」
常世語のお題(尚陽編)
傷だらけの
皮甲
(
よろい
)
真新しい皮甲を血に染めて、景王陽子は延王尚隆の許に戻ってきた。己の半身である景麒の救出を果たして。
愛しき者の無事を確かめ、尚隆は破顔した。無論、そう簡単にやられるはずはないと確信していた。それでも。
「景王、よく無事に戻られたな」
「ご助力ありがとうございます、延王」
頭を下げる陽子は淡々と応えを返す。傷だらけになり、血糊がついた皮甲が、戦いの激しさを物語っていた。妖魔ではなく、初めて人を斬った娘は、その痛みを面に表すことはない。だからこそ。
延王尚隆は全軍に速やかな撤退を命じる。それは、血を厭う麒麟保護のため。そして、見事初陣を飾った若き女王に休息を与えるため。そんな深謀遠慮を知る者はない。尚隆は薄い笑みを浮かべ、騎獣を駆った。
2007.06.11.
長編「月影」第10章の尚隆視点でございます。 お題で隙間を埋めてどうすんだ、と思いつつ、手を止められずにおります……。 連鎖妄想ばかりでごめんなさい〜。
2007.06.23. 速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「き」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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