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常世語のお題(尚陽編)

朽ちた角楼やぐら

「──これ、直さないの?」
 大きな街に似合わぬ朽ちた角楼を指差し、隣国の女王は小首を傾げた。延王尚隆は唇を緩め、軽く応えを返す。
「直す必要もないからな」
 すると、景王陽子はにっこりと笑んで尚隆を見上げた。

 驚くと思ったのに。

 尚隆はその意外な反応に思わず怪訝な顔を見せた。伴侶は女王の顔で微笑する。
「昔ね、慶にも同じことを言った州侯がいたよ」
 明郭の角楼は朽ちたままなんだ、と女王は嬉しそうに告げた。そして眩しい笑みを見せる。
「角楼が朽ちるくらい、平和が続くって、幸せだね」
 延王尚隆は大きく頷き、隣国の女王である伴侶を抱き寄せた。そして同じ想いで朽ちた古の角楼を見上げたのだった。

08.05.22.
 久しぶりの拍手更新、そして久しぶりの「常世語のお題(尚陽編)」でございます。
 お得意の連鎖妄想でございます。 「常世語のお題」にて、柴望が明郭の平和の象徴として朽ちた角楼を残しました。 陽子主上もそれを了承している、と連想してみました。

2008.05.26.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「く」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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