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常世語のお題(尚陽編)

擦り切れた佳氈しきもの

 今年も満開の桜を心ゆくまで眺め、伴侶は楽しげに花見の準備をする。桜の根元に敷かれた佳氈が、存外に擦り切れているのを見て、尚隆は訝しげに問うた。
「ずいぶん擦り切れた佳氈だな。取り替えた方がよいのではないか?」
「ふふ、やっと気づいてくれた」
 嬉しげに言って、伴侶は悪戯っぽい笑みを浮かべる。片眉を上げて先を促すと、伴侶はにっこりと笑んで続けた。

「この佳氈がぼろぼろになっちゃうくらい、ここで花見をしたんだよ」

 花ほころぶように笑う伴侶は、満開の桜花よりも美しい。言葉をなくして見とれていた尚隆は、やがて伴侶をそっと抱き寄せて、甘い口づけを贈った。

2007.06.28.
 こんなところでも「桜」を書いてしまいました(笑)。 陽子主上が楽しげだから、まいっか〜。 これ、甘いですか? 甘いと言ってくださいませ。最近よく分からないのです!
 (──ほのぼのって言われちゃった/笑。2007.07.12.追記)

2007.06.28.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「す」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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