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常世語のお題(尚陽編)

整列した王師

 整列した雁の王師を目にした景王陽子はごくりと唾を飲みこんだ。これから、偽王討伐に挑む。緊張がそのまま伝わるような、蒼褪めた顔。延王尚隆は、薄い笑みを浮かべ、真新しい皮甲に身を包む女王に声をかけた。
「──怖いか?」
 はい、と女王は、小さいが躊躇いのない応えを返す。素直な言に秘められた強い思いを感じ、尚隆は破顔した。
「それでよい。無理をしないことだ。生きて戻るために」
 蒼白な顔をしながらも、若き女王は力強く頷く。その決意に輝く翠玉の瞳をじっと見つめ、尚隆は想いを籠めて言葉を紡いだ。

「──迷うなよ、お前が王だ」
 必ず俺の許に戻ってこい──。

 僅かに目を見張った女王は、口許に微笑を浮かべ、大きく頷いた。

2007.06.11.
 長編「月影」第10章冒頭でさらりと流した場面でございます。 この科白、原作を読んだときから大好きでした。 物凄く妄想を掻き立てられた言葉でございます。 尚隆が想いを籠め、陽子が心の支えとする科白として、随所で使わせていただいております。

2007.06.23.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「せ」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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